読んだもの

「朝腹の茶漬け」は何杯で腹の足しになるのか問題(もしくは『偉人メシ伝』を読んで)

いつものようにくだらないことを書きます。 歌舞伎の演目に沼津というのがあってどういう演目かは歌舞伎をご覧いただくとして、登場人物が荷物を背負うときに「これくらい、朝腹の茶がゆでござりますわ」と軽く啖呵を切る場面があります。初見時に意味がわか…

『夏季限定トロピカルパフェ事件』を読んで

今夏放映されていたアニメ『小市民シリーズ』を録画して視聴し、つい原作に手を出しました。本作『夏季限定トロピカルパフェ事件』(米澤穂信・創元推理文庫・2006)は今夏の放映分の後半部分6話から10話に相当します。ミステリゆえにあらすじの肝心かなめの…

司馬遼太郎「『日本史と日本人』より」を読んで(もしくは日本人の第二の母国について)

神戸から下関まで山陽線というのがありますがこの山陽線というのはとても不思議で、相生から岡山までと三原から広島までは山の中を走り、かつ、峠越えがあります。いくらか遠回りになるもののそのすぐそばに赤穂線と呉線というのが海辺を走っていて峠越えが…

『青春ブタ野郎はディアフレンドの夢を見ない』を読んで

先日発売された『青春ブタ野郎はディアフレンドの夢を見ない』(鴨志田一・電撃文庫・2024)を読みました。なお本作がシリーズ最終章になります。 映画化済の『ランドセルガール』から『サンタクロース』までここ何作かは霧島透子という姿を見せない正体不明…

この時期の着物についての雑感(もしくは『武士の家計簿』に出てくる衣料について)

関東は晩秋から早春にかけて北西のつめたい風が吹きます。ところが京都へ行くとあそこらへんは盆地ですから風がそれほどでもなく、ゆえに足許からしんしんと冷えてゆきます。関東の田舎者であるわたしは防寒対策でも風の冷たさに重きを置くのですが、その冬…

「徹底検証北陸駅そば五番勝負」を読んで

今夏『平成の終焉』(原武史・岩波新書・2019)という本を読んでいます。現在の上皇が現役時代に発したいわゆる「おことば」の問題点や平成と昭和の行幸啓の差異を通して平成という時代における皇室の特異さを浮き上がらせた力作です。ここで お題「この前読…

「好きな小説」もしくは「好きな本」について

その小説がどういう意図で書かれたかは文学部卒ではないからわからないものの、高校時代に深くは考えずに読んだ小説がのちのちおのれに深く影響するということがありました。なんべんか引用していますが開高健さんの『玉、砕ける』がそれで 白か黒か。右か左…

『青春ブタ野郎はガールフレンドの夢を見ない』を読んで

先日発売された『青春ブタ野郎はガールフレンドの夢を見ない』(鴨志田一・電撃文庫・2024)を読みました。 映画化済の『ランドセルガール』から『サンタクロース』までここ何作かは霧島透子という姿を見せない正体不明のミュージシャンが物語の進行に関係し…

『団地の時代』を読んで(もしくは多数決の怖さについて)

いくらか品の無いことを書くといたすことをいたすとき声が出ちまうことがあります。昭和の時代に飛鳥田さんという横浜市長が居てどちらかというと革新系の首長でその頃にラブホテルを規制する条例の機運があったのですが肝心の市長が「横浜は貧弱な住宅事情…

ムクリコクリ(もしくは『東と西の語る日本の歴史』を読んで)

わたしが育ったいわゆる多摩というのは水田がほぼなく、農産物といえば芋類にうどです。そのうちうどはかつて養蚕に利用していた桑の葉を入れる「むろ」と呼ばれる地下室状の空間で育てていて白く、小学生の時分に「むろ」のその光景を眺めていたのでうどの…

『時刻表昭和史』を読んで

お題「この前読んだ本」 を引っ張ります。ちょっと前に『増補版時刻表昭和史』(宮脇俊三・角川文庫・1997)という本を読みました。戦前の昭和8年から戦後の23年にかけて学生時代を過ごした著者の私小説的な本で、まったくといっていいほど劇的な展開もあり…

朝起こすときのことばについて

ここのところしばらく著書を追いかけている山梨出身の網野善彦という歴史学者の説はどちらかというと日本が均質的な単一民族であるかのような考え方に批判的です。詳細は著作をお読みいただきたいのですが『東と西の語る日本史』(網野善彦・講談社学芸文庫…

『中世の罪と罰』を読んで(博奕について)

競艇などの公営賭博をしたことはいちどもありません。が、酔ってあるチームの勝敗を賭けて負けたらなんでもしてやると彼氏に云ったことがあり、結果裸エプロンを所望され、そのテの小さな博奕はしたことがあります。条文上は一時の娯楽に供するものは除外す…

蛭子能収著『ひとりぼっちを笑うな』を読んで

以前太川陽介さんと蛭子能収さんそれに毎回異なる女性ゲスト1人の3人が行くローカル路線バスの旅というのをテレ東系で放映していました。3泊4日でひたすら路線バスのみを利用し、著名な観光地も場合によっては素通りして目的地まで行くというドキュメンタリ…

『小澤征爾さんと、音楽について話をする』を読んで

バカにされそうなことを書きます。 前に『コンサートは始まる』(カール・A・ヴィーランド著・木村博江訳・音楽之友社・1990)というボストン響のドキュメントの本を読んでいます。その本の中で小澤さんは曲を研究する際に分解し、重要と思える「集結点」を…

『古文書返却の旅』を読んで(もしくは江戸期の輪島について)

小さい頃に塩山という街へよく行っていたのですが、高尾から先、塩山の一つ手前の勝沼まで中央線はずっと山の中で、その勝沼は駅からぶどう畑が見えます。日本史などを勉強するようになると機械的に墾田永年私財法とか覚えさせられたのですけど、あの勝沼の…

「だから」「ですから」について(もしくは『防衛事務次官冷や汗日記』を読みながらのメモ)

たぶん前にも書いたはずなのですが社会人になってそれほど時間が経過していなかった頃、直接の命令系統には属さぬもののなにかと目をかけてくれたKさんという先輩が居ました。私が関係していたことで手こずっていたときにそのKさんがアドバイスをしてくれ、…

「深い」もしくは「深さ」について

はじめて人に説明する立場になったとき、使った言葉について質問を受けることがありました。そんなことが起きた原因は、自分が知ってるからといって他人が知ってるとは限らないことに起因します。そのときは平易な言葉で説明できましたが、その体験があって…

犬張子の謎(もしくは磯田道史『日本史の内幕』を読んで)

特に意識したわけでは無いものの結果として異性と結婚もせず、したがって子供がいるわけではありません。知り合いなどに子が産まれてそれを知らされると「お祝いを送らなくちゃ」と考えるものの役に立つものがわからず、最初は知識がないので一時期はタオル…

井伏鱒二展見学

これから「ばーかばーか」といわれそうな話をします。 井伏鱒二の『山椒魚』を読んだのは中学の教科書であったかそれともなにかのテストの模試であったかかなり記憶があいまいで、でも初見時に「山椒魚の気持ちなんて人間にどうしてわかるのかよ?」という素…

『十八番の噺』を読んで(もしくは金明竹のこと)

世の中にはたくさん本を読んでいる書評家というのが居るのは知っていて、しかしそれほど読んでないやつが読んだ本について書いてなんの意味があるのか?とここのところ自問自答していますが、答えがあるわけではありません。ただ読んで考えさせられた本はあ…

『司馬遼太郎で学ぶ日本史』を読んで

『司馬遼太郎で学ぶ日本史』(NHK出版新書・磯田道史・2017)という本を読みました。司馬遼太郎作品のすべてを読んでいないのと磯田先生が書いたとはいえ作品を通して日本史を眺めてなにになるの?というひねた見方をしていたので買っておきながら長いこと積…

『作りたい女と食べたい女4』を読んで

最近『作りたい女と食べたい女4』(ゆざきさかおみ・KADOKAWA it comics・2023)というマンガを読んでいます。マンガをたくさん読んでいる人が世の中に居て、昼間働いているので時間が限られそれほど読めるわけでもなく、なのであんまり数を読んでいるほうで…

『神さまがまちガえる』3巻を読んで

『神さまがまちガえる』(仲谷鳰・KADAKAWA電撃コミックスNEXT)の3巻を今夏読んでいます。おもしろかったです…で済ますのがもったいないので、もう少し書きます。 本作はシェアハウスの大家でかつ研究者でもある姫崎かさねとシェアハウスの住人でかつ学生で…

『青春ブタ野郎はサンタクロースの夢を見ない』を読んで

『青春ブタ野郎はサンタクロースの夢を見ない』(鴨志田一・電撃文庫・2023)を読みました。おもしろかったです…で済ますのがもったいないので、本をたくさん読んでるわけでもなければレビューを作成するほどの読解力もありませんが、書きます。 いつものよ…

『豪商の金融史』を読んで(もしくは破たんを回避するための第三者の目の必要性について)

今年に入ってから『豪商の金融史』(高槻泰郎編著・慶応大学出版会・2022)という本を読んでいます。本書は大阪の豪商であった加島屋(廣岡家)について江戸期から明治にかけて追った本で、特に幕末から明治大正まで大坂の豪商として加島屋がどのように生き…

細川家の借金に対する姿勢について(もしくは『豪商の金融史』を読んで)

今月に入ってから『豪商の金融史』(高槻泰郎編著・慶応大学出版会・2022)という本を読んでいます。本書は大阪の豪商であった加島屋(廣岡家)について江戸期から明治にかけて追った本で、特に幕末から明治大正まで大坂の豪商として加島屋がどのように生き…

『神さまがまちガえる』2巻までを読んで

『神さまがまちガえる』(仲谷鳰・KADAKAWA電撃コミックスNEXT)を最近読みました。おもしろかったです…で済ますのがもったいないので、もう少し書きます。 いつものように幾ばくかのネタバレをお許しください。 本作はシェアハウスの大家でかつ研究者でもあ…

民法762条1項のこと(もしくは『歴史の中で語られてこなかったこと』を読んで)

日本の民法はフランスの民法の影響があるといわれますが、明確に違う部分があります。そのひとつが民法762条1項に「夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする」という…

節分の豆の謎(もしくは「中世の飛礫について」を読んで)

この時期になると節分関連の豆をヨーカドーなどでみかけるようになりますが「なんで豆で鬼が逃げるのか」という趣旨のことを数年前に問われたことがあります。別に正解を云えと問われてたわけではないものの、たしかに不思議な話です。数秒考えて、鬼は歯が…