『神さまがまちガえる』3巻を読んで

『神さまがまちガえる』(仲谷鳰・KADAKAWA電撃コミックスNEXT)の3巻を今夏読んでいます。おもしろかったです…で済ますのがもったいないので、もう少し書きます。

本作はシェアハウスの大家でかつ研究者でもある姫崎かさねとシェアハウスの住人でかつ学生である綿矢紺を軸に「ある特定の事象が起きるまでの猶予時間が表示される」(12話)などの(想像つかぬことが発生する)バグが起こりやすい社会での物語です。詳細は本作をお読みいただきたいのですが3巻ではどちらかというと表面的には平穏な話が続きます(平穏っていっても透明人間になるバグでは顔認証ができずちっとも平穏ではない旨の表現もあるのですが)。

いつものように幾ばくかのネタバレをお許しください。

本作でいうところのバグがある間は紺を含む誰もが影響を受けますが研究者であるかさねはそれらのバグに比較的影響されない「原則から除かれた一部例外」です。他者とは異なる自らについての特殊性などを含め、そのかさねの内心が16話では独白のかたちで描かれていました。しかしなぜ他者と異なるのか、という問いの答えは3巻巻末では出てきていません。そして本作でいうところのバグこそ影響するものの紺も「原則から除かれた一部例外」で他者と異なり(2巻9話10話)、紺自身もうっすらそれを自覚しており(11話もしくは15話)、しかし紺はなぜ他者と異なるのかについてかさねほど深くは考えていませんし、なぜ他者と異なるのかについての問いの答えも3巻巻末の段階ではまだです。かさねと紺がいったいどうしてこうなったのか?というのは明らかにされぬものの、原則と例外といったときに、(たとえばLGBTQがひとくくりにされることが多いように)例外は例外でひとくくりにされてしまいがちではあるものの、本作は例外にも個別に差異があることを端折らずに丁寧に描いていて、今後どのような展開になるかわからぬものの大事なことのような気がしてならず、唸らされています。

更にもう幾ばくかのネタバレをお許しください。

11話では(どんなものかは本作をお読みいただきたいのですが)バグの影響で秘密にすべき紺の出自に関する情報が流出しそうになり、それをかさねを含む紺の周囲の大人が機転を利かせて回収します。そのとき紺は「そんなに頑張ってまで」と正直に口にしてしまうのですが、それを聞いた大人のひとりが秘密について「よく考え自らの意思で打ち明けるのはいい」とした上でよく考えることを紺にすすめ、「その時間を守るのは大人の役目」と述べます。掲載誌の電撃大王がどの世代向けのものかは横に置いておくとして、誰もが抱えかねない秘密の取り扱いについて未成年にもかつて未成年だった人にもフィクションに載せてとても大事なことを云ってると思われ、やはり唸らされています。

以下、くだらないことを書きます。

変えようがない他人との差異があったときに親切心でそれを指摘してくるお節介な人たちが居ます。16話では冒頭にそういう親切心からのお節介のエピソードがあって、これ身に覚えがあるので妙に刺さったのですけど、なぜそんなことをするのかよく考えると謎で、もしかしたら根っこにあるのはおそらく原則があって例外があったとき、その例外を許したくない心境なのかもしれません。人は何故例外を許したがらないのかとか思考が転がっちまったのですがそれは横に置いておくとして、本作は例外とされてしまう側から見た世の中という側面がないわけでもなかったり。

さて、作者の前作『やがて君になる』は「特別」という言葉がキーワードとして何度も浮上しシリーズを通して伏流水のように流れていました。おそらく本作のキーワードは「例外」なのではあるまいか、と想像します。物語の核心に迫りつつあるのかどうかはわからぬもののきわめて濃い世界が構築されてることもあって、どんなバグが起きるかを含め、次巻が気になるところではあったり。マンガの感想をどう書けばいいのかよくわからないのでこのへんで。