『神さまがまちガえる』4巻までを読んで

『神さまがまちガえる』(仲谷鳰KADOKAWA電撃コミックスNEXT)の4巻を今月に入ってから読んでいます。おもしろかった!…で済ますのがもったいないので、もう少し書きます。

本作はシェアハウスの大家でかつ研究者でもある姫崎かさねとシェアハウスの住人でかつ学生である綿矢紺を軸に「油脂を含むとき甘味と塩味が逆転する」(20話)などの(想像つかぬことが発生する)異常なバグが起こりやすい社会での物語で、この4巻がラストです。

幾ばくかのネタバレをお許しください。

21話22話ではいわゆるバグのない世界、物語の中の言葉を借りれば「修正されるべき異常が存在しない世界」が到来します。その世界は主人公の紺の秘密もバレませんし、かさねの言葉を借りれば紺が「ふつうの子」で居られるある意味で理想的な世界です。紺とかさねがその「修正されるべき異常が存在しない世界」をどう思ったか?どう対峙してどう解決したか?についてが本作のいちばんのキモで(読んでいてヒリヒリしたのですがそれはともかく)、やはり詳細は本作をお読みいただくとして。

いつものように話は横に素っ飛びます。

21話22話において伏流水のように流れてるのが「正常」と「異常」もしくは「ふつう」です。個人的なことを書くと私は場合によってはバグとまではいかなくても「修正されるべき異常」扱いされかねない性的少数派で、ゆえに正常ってなんだよ?っていう意識をずっと持ち続けていました。22話に置いて「この世界はいつもおかしい」という文言を読んでかさねや紺とも異なりますがおのれを肯定された気がしてならず、読後の感想としては「このマンガに出会えてよかった」感があります。もっともこれは「修正されるべき異常」を持っている側の感想で、誰もがそう思うか?というと怪しく、本作が万人受けするかというと怪しいです。

もう幾ばくかのネタバレをお許しください。

本作でいうところのバグがある間は紺を含む誰もが影響を受けますが研究者であるかさねはそれらのバグに比較的影響されない「原則から除かれた一部例外」です。そして本作でいうところのバグこそ影響するものの紺も「原則から除かれた一部例外」で他者と異なり(2巻9話10話)、紺自身もうっすらそれを自覚しています(3巻11話もしくは15話)。些細なことなのですがなぜ紺とかさねで異なるのか?なぜ例外になってしまったのか?についての説明はなく、ゆえにその点ひっかかりがないわけではありません。しかしながら、原則と例外といったときに(たとえばLGBTQがひとくくりにされることが多いように)例外は例外でひとくくりにされてしまいがちではあるものの、本作は例外にも個別に差異があることを端折らずに丁寧に描いていてそれは最後までほんとうにゆるがず、好感が持てています。

以下、願望を。

前作『やがて君になる』同様本作も隙のない緻密な構成の上に物語が展開されていて、濃い空間を堪能させてもらえました。出来ることなら仲谷節をこの先も読めたらな、と思わずにはいられなかったり。