『作りたい女と食べたい女2』

小説やマンガをたくさん読んでいる人が世の中に居て、昼間働いているのでそれほど読めるわけでもなく、なのであんまり読んでいるほうではない奴が読んだ本やマンガについて何か書くということに相変わらず抵抗を覚えているのですが、なにも書かずにいるのがちょっともったいないので書きます。

『作りたい女と食べたい女2』(ゆざきさかおみ・KADOKAWA it comics・2022)というマンガを読みました。『作りたい女と食べたい女1』では料理を作るのが好きな野本さんが以前フライドチキンの大袋を抱えていた隣室の春日さんに声をかけたことを軸に物語は進みましたが、2では春日さんに野本さんが弁当を作るところからはじまります。どんな弁当を作ったかは本作をお読みいただくとして。

幾ばくかのネタバレをお許しいただきたいのですが、2は料理を作る・料理を食べるという描写以外にもページがある程度割かれています。

たとえば11話12話では男女で序列や差異がある保守的な環境への疑義を含めつつ春日さんがなぜ故郷に帰省しないのかという理由を述べるのですが、読む方に「食べる」ということに関して再考を促すカタチになっています。特に深夜に家族の目を盗みながらこっそりとトーストを作り(それは美味であったものの)それを食べながらみじめな気持ちになったことを春日さんが野本さんに語るのですが、「食べる」という行為の意味が生きてく上で栄養を取るためだけではないことを示しているような気がしてならず、唸らされています。また16話17話では野本さんの性的指向についても触れられています。詳細は本作をお読みいただきたいのですが、他人を納得させやすい型に人をはめてしまう世の中への反発や世の中に同じとは言えぬものの似た人が居ることに安心する描写があるのですが、野本さんと性別は異なるものの、なんだか手に取るように理解できています。

ローストビーフをはじめとして作る描写と食べる描写が本作も多く出てきます。しかし、(1のときにも書いた記憶があるのですが)それがどんな味かの描写は不思議とありません。たとえば11話では鮭はらこ飯が出てくるのですけど、非東北民としてはそれがどんな味のものなのか見当もつかず、作者と読者の間もしくは登場人物と読者の間には(美味しいんだろうなあと思いつつ遠くから指をくわえて眺めるしかない)透明なアクリル板があるような感覚があります。

明るい話ばかりではないのですがそれでいて暗さを感じないのは春日さんも野本さんも「好きなことを追求している人たち」だからで、たとえば夜に唐突にフルーツサンドを作りはじめます(15話)。ヨーグルトを生クリームの代わりにしてて唸らされたのですが、コスプレの話メインの着せ恋同様に「好きなことを追求している人たちの物語は眺めてるだけでも面白い」です。

くだらないことを書くと本作に出て来た鮭はらこ飯は興味があって検索してしまっています。残念ながらいまはできませんが、チャンスがあったらやってみたいと思わされました。フィクションに影響される悪い子であることがバレそうなので、このへんで。