『ゆびさきと恋々』3話までを視聴して

MXで夜に放映しているアニメ『ゆびさきと恋々』の3話を録画したものを視聴しました。その感想をいちいちここで報告する必要性があるのかと思いつつ、匿名を奇貨として、以下、書きます。詳細は是非本作をご覧いただきたいのですが、大前提としては聴覚に障害のあり手話を操る大学生雪さんと雪さんの大学の先輩の逸臣先輩との先輩後輩の話です。

いつものように幾ばくかのネタバレをお許しください。

補聴器は補聴器によって増幅した音が補聴器のマイクに入ることによってハウリングすることがあります。3話前半、補聴器をつけてる雪さんは逸臣先輩の働く店でそれが起きてしまい、それをきっかけに逸臣先輩は雪さんに聴覚に関するいくつか質問を投げかけます。それは事実の確認であっても傍から眺めてる限りいくらか微妙な内容も含まれていたゆえに周囲は慌てるのですが、当事者である雪さんはイヤな顔をせず逸臣先輩も平常運転です。微妙な問題を微妙な問題として扱うのは傍に居る第三者であること巧くフィクションに載せていて、唸らされ、同時に「え?逸臣先輩それ訊くの?」と思ってしまった私にもブーメランが刺さっています。

もうちょっとだけ不粋なこと、かつ、頭の悪いことを書きます。

2話では雪さんは異性の居ない少人数制のろう学校で教育を受けたことが明かされていました。その事情を知ってる手話を使える桜志くんが3話にも登場します。なぜそんなことになったのかは是非本編をご覧いただきたいのですが夜に逸臣先輩に逢いに行こうとする雪さんを彼は止めにかかります(声をかけても聞こえないのは知ってるので彼はあるものを投げるのですがそれが予想外のものででもよく考えられていてちょっと唸らされたのですがそれはともかく)。雪さんにまつわる微妙な問題を微妙な問題扱いせず忌憚なく意思疎通が出来るのも桜志くんでそれをおそらく自覚していて、雪さんの過去を知ってるからこそ心配なのは理解できなくもなく「損な役回りだよな…」と思っちまいました。フィクションの登場人物に心底同情するのはなんだか頭悪いことの証明になってる気がしてるのですが、それくらい読み取れる程度に物語の展開が巧く、そして丁寧です。

さて、視覚はまぶたの筋肉を使いますが耳からの聴覚というのは障害が無ければさして運動機能を必要とせず、なので意図せず聞こえてしまうことがありますが、聴覚に障害があるとなるとそういうこともありません。3話でもそれは繰り返し繰り返し出てきて、逸臣先輩が働く店で酔っぱらった女性が逸臣先輩に絡んでいても雪さんにはその関係が推測できませんし、目の前で逸臣先輩が笑っててもその笑い声が聞こえません。それらは雪さんサイドの世界として丁寧に描写され、とくに後者は正直はっとさせられています。そして3話では逸臣先輩が手話を雪さんから習得しようとし、どうしてそう思ったか?という理由も逸臣先輩の口から語られます。語られますが雪さんにはおそらく聞こえていません(聞こえないことを前提に語ったのかもしれませんが)。3話を視聴して感覚の一つを欠く、ということについて改めていろいろと考えさせられています。

原作は当然未読なのでヘタなことは云えませんが意思疎通ということが物語に伏流水のように流れてる気がしてならず、感覚の一つを欠いたとしてもそれは可能であることをフィクションに載せて語ってるのかなあ、と。そこに妙に惹かれてしまっています。アニメに詳しくなくアニメの感想の書き方を知らないのでこのへんで。