小田原の旧松本別邸見学

関東は雪はそれほどでもないものの晩秋から冬のあいだは冷たい北西の風が冬のあいだ吹きます。それを地域によってはからっ風とか呼ぶのですけど、仮に北西に遮るものがあれば冬の寒さは若干和らぎます。ので、北西に箱根山という遮るものがある小田原は明治維新以降避寒地としてうってつけで、東京に住む人が別邸を小田原に構えることがありました。小田原にはいまでもいくつか現存しています。そのうちのひとつが大正期に建てられた旧松本剛吉別邸です。

北西に箱根山があるとはいえ屋敷内は避暑の意味もあるのか緑豊かで≒植林してあって、建物のある程度が木陰になるようになっています。

くわえて庇も長いこともあって、和風の室内はあんがい暗いです。

基本は和風建築なのですけど仕切りの向こうにガラス張りのサンルーム状の空間が作ってあり

落葉すれば南向きで陽光がサンルームに差し込むはずで、日向ぼっこができるようになっています。当時の調度品の椅子が置かれていました。

サンルームというと洋風にきこえますが床は(ちょうなや鑿で板を削る)名栗加工がしてあります。ちょっとモダンにみえますが日本建築の古くからの技術で、それをサンルームに施す発想が非凡です。ついでに書いておくと名栗加工した板と板の隙間には細い竹が嵌め込まれていて、こだわらなくてもいいところにこだわりがあって、唸らされています。

上を見上げると天井には(なんなのかは不明なものの)樹皮が敷き詰められてて唖然というか呆然というか、笑うところではないのだけど良い意味でクレイジーで、つい吹き出しそうになっています。

建物内には蛍壁という細工がなされています。土壁に京都の黄土色の聚楽土を使っていて、それはそれだけで見る人が見れば「おお…」となるのですが、そこに鉄粉を混ぜ鉄錆を表面に出しています。浮き出た錆の紋様が蛍が飛んでいるように見えるので蛍壁で、もちろんサンルームの中にも施されていました。

主屋のほかに茶室があって、その茶室は真ん中でくの字に15度ほど折れています。

ある程度伝統建築の約束にしたがって作ってあるのですが百年以上前の建物にはおもえないほど斬新に思えて仕方がなく、その発想がまた良い意味でクレイジーで、笑うところではないと知りつつ口許がにやけています。

施主の松本さんの意向なのか設計者の遊び心を施主の松本さんが許したのかは謎なものの、いまはいない関係者のその脳内の思考の残滓が垣間見えるのが工業製品ではない建築のとても素敵で厄介で面白いところです。

さて、バカにされそうなことをちょっとだけ。

松本邸の見学のあと近くの御幸の浜に寄っています。

上の4秒後、波が来て

さらにその4秒後、足許へ。久しぶりに足の裏から砂が消えてゆく感覚を味わってきました。