オランダ総選挙のこと

民法には婚姻について男女ですべきものなんて一言も書いていませんが日本の憲法の婚姻の規定は男女が前提です。24条に「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」ってあるので、婚姻というのは男女でするもの、という前提になってます。ですから同性同士の婚姻というのは事実上不可能です。渋谷区や世田谷区の場合は同性カップルに対して条例において証明書発行等がありますが異性間婚姻と似たような効力が税金などにあるか、といったらありません。憲法の規定を飛び越して条例がなにかできるかっていうと難しいからです。同性婚というものを異性間婚姻と同列にしようとすると憲法を変える必要があって私は必ずしも護憲ってわけではないのですが、っててめえの政治信条は横に置いておくとして。
オランダの場合は憲法に婚姻の規定がなく同性婚に関しては憲法に縛られずに法律で対応し、オランダは同性婚を早い段階で認めていて既に十数年を経ています。税金や社会保障などについては既存の異性間の婚姻と同じ効力があります(もっとも永住権者に限るなど限定的であるのですけど)。そのオランダで総選挙が15日にあるのですが、極右的な自由党が第一党になるのではないか、という報道がなされています。厄介なのは極右といっても単純な極右ではなく、同性愛に寛容でありつつ、むしろ同性愛に必ずしも寛容とは限らないイスラム教徒を敵視する構図です。
差異のある複数の集団・信仰・民族が共存することを前提としたオランダ社会はここで変わってゆくのかなあ、などと行ったことはないものの、報道をみてると若干気になってるのですけども。
【追記】
16日のAFPのニュースでは自由党が第一党になるのは回避した模様。杞憂に終わったようです。あとAFPで確認した限り「グリーンレフト」とよばれる環境政党も伸ばしてて、もしかしたら極右が伸びる反動として環境政党も伸びるのかなあ、と。
【更なる追記】
18日付毎日東京版にこの選挙に関する浜同志社大教授の解説コラムがあってとても興味深かったです。結果としては極右的な自由党の躍進のストップにオランダは成功したのだけど、与党自民党がとった作戦は過激な排外主義者や差別主義者を「誤ったポピュリズム」と指摘しつつ自陣営では「オランダ化できない感性の人たちは出て行ってくれ」というニュアンスのことをずっと述べていたのだそうで(オランダ化というのはいまいちぴんと来ないのだけど、オランダにおいては教育の宗教からの分離があって結果として必ずしも特定の宗教を背景にした道徳的なものには社会がそれほどとらわれないのが今のオランダ社会の特徴でもあって、と同時に各宗派が存在できる緩やかな社会になってるんだけど、おそらくそういうものを指すと思われるんすが)。
でもって浜教授は「誤ったポピュリズムに引っ張りこまれ」「選挙に負けて勝った」としてて、それでいいのかと疑義を呈しているのですが。
ここから先は浜教授とは関係ないんだけど、自由党と与党自民党なにが違うのか、といったら排除の対象は「イスラム教徒」と「オランダ化できない感性の人たち」の差でしかなくて、民族や信仰による排他こそ防げたものの、差はあるんだけど与党側はいままでは明示されてこなかった排除対象を作ってしまった点で引っ張られちまった感はあるなあ、と。よりましな状況を生むために戦術的にやむを得なかったかもしれなくて、じゃあほかに解決策があるかっていうと難しいのですが。
政治にそれほど興味はないもののいまの欧州は厄介なことになっちゃってるなあ、という気が。