英国の同性婚のことについて

英国において同性愛というのは50年前まで犯罪でした。英国の国会議員が問題提起して英国政府が動き、1957年にウルフェンデンリポートというのがでます。内容としては刑法から道徳的な要素を排除するべき、という提言で同性愛の非犯罪化を含む答申をしました(これは英国に限らずドイツや日本の法学者にも影響を与えます)。それから10年後の67年に性犯罪法というのが制定されてイングランドウェールズで同性愛が犯罪ではなくなります(UK全土になるのはそれから15年後の82年です)。ただし一筋縄ではいかなくて犯罪ではなくなったものの、地方自治体は意図的に同性愛を推奨してはならない、同性愛を許容する内容を公立学校では教えてはならない、という趣旨を含む地方自治法サッチャー時代にできます。思想統制すれすれのことはブレア政権ができるまで続いていました。ブレア政権時にはサッチャー時代の地方自治法を改正し、そのうえで婚姻は男女に限るという結婚無効法というのが70年代に英国では施行されていたのでシビルパートナーシップ制度というのを05年に制度として作ります。同性愛に関して政策上の規制のなくなった地方自治体の登録官立会いのもとで書類に署名した同性2人のカップルに異性間婚姻に与えられるメリットに近いものを与える内容です。シビル、となってるのは当初は教会などで牧師の立ち合いの登録を想定していなかったからです。そのうえで保守党政権下ですが同性婚についてイングランドウェールズでは2013年に、スコットランドでは2014年に、OKとなりました(北アイルランドは未成立)。
英国は60年弱かけて法と道徳を分けて考え、そのうえで同性カップル権利を異性カップルの権利と同じものにしました。
さて日本においては同性愛は犯罪ではありません。でもって婚姻に関しては民法に記載があります。民法は婚姻について男女ですべきものなんて一言も書いていません。が、日本の憲法の婚姻の規定は男女が前提です。24条に「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」ってあるので、婚姻というのは男女でするものという前提になってます。14条に「法の下の平等」ってのがあるじゃない、なのになんで異性間はオッケイで同性間できないの、といわれるとしんどいのですが、同性同士の婚姻というのは事実上不可能です。つまるところ同性婚というものを異性間婚姻と同列にしようとすると憲法を変える必要があります。いまのところ同性のカップルがもし同じ籍に入るとしたら唯一の手段が養子縁組で、養子縁組の同性カップルというのは存在します。もちろん既存の婚姻とは異なる形態の、しかし限りなく婚姻と同じメリットを同性カップルに与える制度を作るということを模索する動きがあります。東京の渋谷区は条例で公正証書を用いて任意後見契約や合意契約をした同性カップルに対して条例において証明書発行等をしますが異性婚のように特に税制のメリットがあるわけではありません。きわめて限定的です。もしほんとに同性婚や英国のシビルパートナーシップ制のようなものを制度化する場合、税制や年金などの社会福祉制度、戸籍の記載をするかしないか、記載しないとすれば重婚を想定して刑法なども絡むわけでけっこうクリアすべき課題が多いです。その前に法と道徳を分けて考えることに日本人は慣れているか、というと怪しいかなあ、と思うので絶望的になってくるのですけど。
何回か書いている話ですがなんでまたこんなことを書きだしたかといえば民進党の代表選で候補者がともに同性婚に関しての前向きな発言が出たからです。憲法を改正するか、もしくは同性カップルに婚姻と同じメリットを与える別制度の創設か、詳細はわかりません。選挙目当てのリップサービスかもしれないものの、私の目の黒いうちはムリだろうと思いますが、課題をひとつひとつ解決しながら社会が変わればいいな、とほんの少し期待しているのですが。