性的指向が少数派に属するカップルの氏の変更が認められた事例

これからややこしい話をします。しばしおつきあいください。

国民すべてに氏を名乗るように強制するようになったの明治8年太政官布告からで、徴兵制に付随して戸籍が整備された結果です。戸籍のあとに31年に旧民法が成立しますが旧民法は先行した戸籍制度が絡めて婚姻に際して同じ氏を名乗るように規定し、それまでは夫婦同一の姓が必ずというわけではなかったものの以降必ず同一の姓を名乗るようになり、それがいままでずっと続く夫婦同姓の制度となり、以降、戸籍は氏を同じくする家族の単位を公示する意味合いを持つようになり、副次的効果として

同じ家族である≒氏は同じ

という考えを多くの人が持つようになります。現行民法でも「夫婦は婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称する」(民法750条)という条文があり、ご存じのように議論はありますが異性間の夫婦が婚姻した際の夫婦同一の姓の制度は維持されたままです。

現行の憲法では婚姻というのは条文上は「両性の合意のみに基いて成立」(憲法第24条1項)しますが、異性間は別として同性間では婚姻届は基本的に受理されません。もし同じ戸籍同じ氏になるとしたら養子縁組ですが同性のカップルのおそらく大多数は親子になりたいわけではありません。同性間のカップル2人に対して婚姻に近接したシステムとして各自治体が制度として導入しつつある当事者が公正証書などを作成した上でのパートナーシップ制度がありますが、同制度は条例によってなされるもので戸籍法や戸籍と関係ありませんからそれが提出されたところで役所にある戸籍が変更されるわけではありませんし、したがって氏の変更を伴うわけでもありません。氏の変更について戸籍法上は条文としては

第百七条 やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。

とあって、実際の運用としては元暴力団員として氏が知られている場合に更生のために必要と判断された場合(宮崎家審H8・8・5家月49-1-140)などが「やむを得ない事由」となっていました。

上記の自治体のパートナーシップ制度を利用したカップルが同じ氏にするために戸籍法上の氏の変更を名古屋家裁に申し出て許可がでた、という報道が9日にありました。NHKなどによると当事者が育児をして婚姻をしている異性どうしの夫婦と実質的に変わらない生活実態にあると認められるとした上で

性的指向が少数派に属する者は日常生活のさまざまな場面で差別感情や偏見に基づく不利益な取り扱いを受ける可能性があり、意に沿わないカミングアウトをしなければならない状況が生じることは、それ自体、社会生活上の著しい支障になるといえる」

として「やむを得ない事由」があると家裁は判断し許可した模様です。

繰り返しますが現行法上同性間は婚姻はできません。そして同性間でも氏が同じになったところで異性間の婚姻時のように同一戸籍になるわけでもないです。が、同一戸籍であれば同じ氏であるという制度の副次的効果として

同じ家族である≒氏は同じ

と多くの人が考えがちなことを巧く利用して当事者の保護を図っていて、杓子定規ではない柔軟な名古屋家裁の判断にちょっと唸らされています。

ここのところ裁判所がかなり当事者に寄り添った判決を出すようになった印象があります。裁判所になにが起きてるのかは外からはわかりませんが、しばらく注視したいと思います。