犯給法5条1項1号の(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。)に同性2人は含むかについて

民法の影響が及ぶ範囲では役所に婚姻届を提出し戸籍に婚姻の文字が記載された場合を法律婚と呼ぶことが多いのですが、仮に婚姻の届出をしてなくても婚姻と同じ状況にあるカップルであれば民法の条文にはないものの判例のなどにより事実婚もしくは内縁という名称で保護を与えていています(最判S33・4・11・民集12巻5号798頁ほか)。たとえばこの内縁関係にあって仮にその関係が破たんしたとき、法律婚カップルと同じように一方に責がある場合はもう一方は慰謝料請求の余地があります。婚姻届けを出す婚姻(=法律婚)と婚姻届けを出さない場合(=事実婚)との差はないわけではないのですが、破たん時の慰謝料請求など同じところも多いです。なおややこしいことを書くと、内縁や事実婚というのは判例等で形成された概念であって特に条文があるわけではありません。ではカップルを構成する2人の性別が同じであったとき婚姻届けは受理されませんが共に生活していたとき、それを仮に内縁関係=事実婚として扱うべきか否か、というと、いまのところ答えはありません。むしろどちらかというと否定的です。

話をいったん横に素っ飛ばします。

否定的ではあるものの例外が無いわけではありません。米国で同性婚を行ったカップルの一方の不貞行為を原因として事実婚が破たんして慰謝料請求を求めた事例では「同性のカップルでも、実態に応じて、一定の法的保護を与える必要性は高い」とし、婚姻が男女に限られる現時点では内縁の成立は男女に限られるとしながらも男女の内縁関係と同視できる事情がある場合には同性間でも内縁に準じた法的保護に値すると判断し、慰謝料請求を男女間とは法的利益の程度が異なる点から減額しながらも認めています(宇都宮地裁真岡支判R1・9・18)。いまのところこの内縁の成立は男女だけど同性間であっても内縁関係と同視できる事情があれば内縁に準じた法的保護に値するという真岡の判断が否定的でないおそらく唯一の事例です。

話を元に戻します。

犯罪被害者等給付金支給法という法律があってその名の通りの犯罪被害者に給付金を出すための根拠法です。遺族が給付を受ける場合においての条文を抜き出すと

第五条 遺族給付金の支給を受けることができる遺族は、犯罪被害者の死亡の時において、次の各号のいずれかに該当する者とする。

一 犯罪被害者の配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。)

二 犯罪被害者の収入によつて生計を維持していた犯罪被害者の子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹

三 前号に該当しない犯罪被害者の子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹

で、括弧つきではあるものの

(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。)

とあり、なので婚姻届を役所に提出していなくても男女2人で内縁=事実婚状態であれば遺された一方へ給付金を出すことが出来ます。ではカップルを構成するのが同性2人であったときは?というとやはり否定的で、愛知県公安委員会は「現在の社会通念上同性同士の関係に内縁(事実婚)関係が成立するのは困難であるといわざるを得ない」とし不支給と裁定していました。その不支給の裁定について法の下の平等を定めた憲法14条に反するとして裁定の取り消しを求めた裁判があり名古屋地裁名古屋高裁と係属し名古屋高裁は令和4年8月に支給対象者に同性パートナーを含むとは解釈できないという判断をし、その後最高裁に係属していました。

その判決が今日ありまして、犯給法の

(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。)

という条文の語句についてなのですが、判決要旨を読む限り最高裁第三小法廷は犯給法の制定意図などを踏まえた上で「事実上婚姻関係と同様の事情にあったといえる場合には犯罪被害者の死亡により民法上の配偶者と同様に精神的経済的打撃を受けることが想定され」「打撃を受けその軽減を図る必要性が高いと考えられる場合があることは、犯罪被害者と共同生活を送っていた者が犯罪被害者と異性であるか同性であるかによって直ちに異なるものとはいえない」とし、「犯罪被害者と同性であることをのみをもってして婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含むに該当しないものとすることは犯給法5条1項1号の括弧書きの趣旨に反する」と述べ

(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。)

について犯罪被害者と同性の者も含まれるとし、26日付けで名古屋高裁の判決を破棄し名古屋高裁へ差戻しとなりました。このことにより犯給法に関しては同性2人だからといって今後門前払いということはなくなると思われます。

でもって、真岡の事例に続き、同性2人と異性2人を同列に並べた画期的な判断だとおもわれます。

ただ非常に書きにくいことではあるのですが反対意見が付されていて、それが傾聴に値するものなのです。本件は名古屋高裁へ差戻になるのですが本判決では

(事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。)

ということに関し要件については一切触れられておらず、同性同士の関係においてなにをもってして事実上婚姻関係と同様の事情と認めるかは「それほど簡単に答えが出せる問題ではない」とも反対意見は指摘しています。婚姻とはなにかというのにもつながるのですが、それらの指摘は無視できない部分もあり、おそらく問題の完全解決にはしばらく時間を要しそうな気が。