同性2人の婚姻届不受理に関する札幌高裁の判断についての雑感

家族法に関しての、すっごくめんどくさい話を書きます。しばらくおつきあいください。

婚姻に関する法律は民法にあり、しかし民法の婚姻の条文をいくら読んでも近親婚の制限や重婚禁止などの規定があっても同性同士の婚姻について禁止する条項がありません。ですが不思議なことにできません。というのは婚姻の効力について規定のある739条に「婚姻は戸籍法の定めるところによりこれを届け出ることでその効力を生ずる」というのがあり、現行の民法より先に戸籍制度があったのでそれをそのまま利用していて、つまるところ民法の婚姻に関する規定は戸籍法等にもたれかかる構造で、その戸籍法等が男女2人の婚姻届提出を前提にしているので、できない側面があります。正確に書くと戸籍法の細かい部分を定めた戸籍法施行規則の付録目録第12号に婚姻の届出に関する様式が定められててそこには父母との続柄欄に片方が男、もう片方が女とあるので、どちらかが男でもう一方は女である2人を想定してて、同性二人ではそこに記入不可ですから届出しても受理してもらえません。同性のカップルがもし法的利益を享受するために同じ籍に入るとしたら現在の唯一の手段は一方が親、もう一方が子になる養子縁組です。でも同性のカップルは親子になりたいか?といったらそんなことはないはずです。

婚姻に関して戸籍法と民法のほかに憲法に留意する必要があります。憲法24条に

24条1.婚姻は両性の合意のみに基づいて成立し、婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない

2.配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

というのがあってその語句を素直に読めばおそらく「両性の合意」では確実にない「同性2人の合意による婚姻」は憲法は想定してないのではないか、と思われてました。というかあほうがく部を卒業しくたびれたおっさんになったわたしも最近まで思っていました。

でもなんですが。

夫婦別姓に関する訴訟(最判H27・12・16民集69巻8号2586頁)で、この24条について「婚姻は当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨である」と最高裁判決理由中で述べています。この最高裁の趣旨を基にすると24条が「婚姻は当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられてる」規定であるならば両性という語句に囚われる必要はないわけで、ゆえに同性婚を否定したものではない、とも解釈できないこともないのです。だとすると、民法がもたれかかる戸籍制度および戸籍法施行規則によって婚姻が事実上異性間2人のものに限っている実情は

第14条 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない

法の下の平等を定めた語句を持つ憲法14条に違反するのではないか?という疑問が生じます。(夫婦同姓に関する最高裁判決理由が十中八九ターニングポイントになったと思われるのですが)夫婦同姓の訴訟以降、14条と24条に関連して同性2人の婚姻を認めない民法戸籍法等は違憲ではないのか?という訴訟が各地で提起されています。

めんどくさい話を続けます。

先行した(2021年3月17日の)札幌地裁では「同性愛者が婚姻によって生じる法的利益の一部すら受けられないのは合理的根拠を欠いた差別的扱い」として14条の法の下の平等について違憲と述べ、24条について婚姻は両性の合意のみに基づくとの規定は「婚姻は両性の合意のみに基づくとの規定は、両性など男女を想起させる文言が使われるなど異性婚について定めたもの」と解釈し(つまり夫婦同姓のときの最高裁の解釈をそのまま同性婚にはあてはめることはせず)、同性二人では婚姻届けを提出できない現行の制度が婚姻の自由を定めた憲法24条には違反しない≒合憲と判断しています(+立法不作為に関する損害賠償請求は棄却)。

その控訴審判決が札幌高裁でありました。

判決要旨を読む限り、まず24条について札幌高裁は「その文言のみについてとらわれる必要はなく、目的とするところを踏まえて解釈すべき」であると述べた上で24条1項は「婚姻するかどうか、いつ誰と婚姻するかについては、当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられてるという趣旨を明らかにしたもの、と解され」とし、その上で2項の「婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」という条文を踏まえたうえで同性間の婚姻についても両性間の婚姻と同じ程度の保証していると考えるのが相当、という解釈をし、現行の異性間にのみ認められる婚姻の制度や同性愛者の扱い等に丁寧な検討を加えて異性間の婚姻のみ認めて同性間の婚姻を認めず代わる措置もない現行制度は憲法24条の規定に照らして違憲、という判断をしています。

ついで14条について「同性愛者と異性愛者の違いは人の意思によって選択変更し得ない性的思考の差異である」と述べた上で「性的指向に差異がある者であっても同じように制度的保障を享受すべき地位があり」「それを区別する合理的理由はない」とし、その上で同性婚を許容していない現行の婚姻制度は同性愛者は婚姻制度による法的効果を享受することが出来ず現行の制度は「合理的根拠がない」とし、さらに契約や遺言を用いて婚姻に似た一定の効果を得られるものの代替的措置によって同性愛者が婚姻できないことの不利益を解消することが出来るとは認め難いことを述べた上で、現行制度が差別的取り扱いである、と指摘したうえで「違憲である」としています。

今回の札幌高裁の判断はどちらかというと条文の文言に囚われていません。くわえて24条について「婚姻するかどうか、いつ誰と婚姻するかについては、当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられてるという趣旨を明らかにしたもの、と解され」という解釈を取り入れていて、個人的にはぐうの音も出ない程度に「よく云ってくれた」感があります。

ただ裁判官は独立しているので今後似たような判決がでるとは限りませんし、おそらく最高裁まで行くと思われます。実質あほう学部卒なのですが元法学部生として興味がある事柄で、ゆえに事態を注意深く見守りたいと思います。