浜松市秋野不矩美術館へ

浜松は比較的大きな都市ですが北部の天竜区は(悪く云えばというのは横に置いておくとして)よく云えば緑の多いところです。浜松駅から遠鉄電車と天竜浜名湖線を乗り継いで運が良ければ50分くらいのところに二俣という街があり、日本画を教えるためにインドの大学に赴任し赴任地インドの風景を描いた作品を多く残した二俣出身の日本画家(といってよいのかいくらか迷うのですがともかく画家)の秋野不矩の作品を収蔵した浜松市の美術館が建っています。

現在所蔵品展を開催中で、それを日曜に観覧していました。

作品については是非浜松で実物を観ていただいた方がぜったい良いのですが、洋画や写真のような写実的ではない日本画の素養を持って描かれた風景を眺めていると作者本人が荒涼としたインドの風景にいかに魅せられたかが良くわかるというか、作品にちょっと触れただけですが、館内は濃密な空間です。

館内の写真は撮っていませんが日本家屋のように靴を脱いで見学するようになっています。展示室のひとつは(おそらく)漆喰の白い壁の大きめの空間でそこに作品がかかっていて、やはりどこか日本家屋を意識している印象です。ただ、六曲一隻の屏風絵をその空間では一枚の絵のように展示してあってその扱いは決して作品の価値を貶めるものではないのですが違和感があって、学芸員さんに訊くとその屏風絵を日本間に置くように折ると奥行きが出るらしく、それを眺めることが出来なかったのは残念というか。描かれてるのはインドの風景ではあるものの日本画を現代の設備の中で見せることって、難しいなあ…と思わされています。

ついでに書くと立った状態で観覧するには適した位置に多くの作品は置かれていません。ちょっと低めで中腰もしくはしゃがんで眺めるとちょうどよく、あとで知ったことですがそもそも画家がそう指示し、設計者は座って眺めることを意識していたようで。考えてみたら屏風絵などは座った状態で眺めることもあるわけで何ら変でもなく、唸らされています。

美術館の入口のある石葺き屋根のある部分は(あとで彼氏から云われて気が付いたのですが)おそらく土間を意識していて、梁は古材っぽいものが使われていて、また採光のための窓が屋根に設置されていてその部分は陽光が入る設計です。採光窓はないよりあったほうが良いのですが館内からその窓のアプローチが見当たらず、外からだと屋根の角度がキツく(建物の下は急傾斜で)、なので職員の方に「あれ、どうやって拭いてるのですか」と疑問をぶつけたら外からは拭けぬらしく、内側から職人さんを雇って年一回拭くのだそうで。メンテナンスが大変そうだなあ、などとそのときは思ったのですが。でもここは効率がすべてではない絵画等を収蔵する建物であって、メンテナンスについて考えるのはナンセンスかも。

あれこれつらつら書いていますが、つまり、収蔵作品以外にも建物そのものに見応えがありました。設計者は藤森照信さんという建築史家・建築家です。ところで藤森さんは茶室を複数作っていますがここにもあって

美術館本館の真正面にあるのが望矩楼という茶室です。図画工作の延長ような建物で、「なんだかいいなあ…」としばらく眺めていたことを告白します。

美術館の建物は作品を引き立てるためにあるべきなのか?美術館も作品であるべきなのか?とか答えのない疑問が浮かんでは消えたのですが…ってそんなことはともかく。大事なことを書くと≪見の目弱く、観の目強く≫と称された所蔵品展は9月3日まで開催中です。