(大阪空港訴訟に関する)團藤ノートについての雑感

はるか昔のJR東海のCMにシンデレラエクスプレスというのがありました。最終の新幹線の東京や新大阪の到着が24時ちょっと前で、それに焦点をあてたものです。そのときはなんでそれがCMになるのかぴんとこなかったのですが、大学生になってから法学部へ入り夜間の飛行機の離発着差し止め等を争った民事訴訟である大阪空港訴訟を知り、その訴訟の結果として大阪に近い伊丹の大阪空港が夜9時以降飛行機の離発着ができないことを知って「ああ、新幹線ならギリギリまで一緒に居れるというCMなのか」と腑に落ちた次第です…って、私の内臓の話はどうでもよくて。

大阪空港訴訟は夜間の空港の差し止め等を民事で争っていて、結果としては夜9時以降の離発着は出来なくなるものの、大阪空港の管理者は運輸大臣でその運輸大臣には空港の管理権と航空行政権の2つの権限があって一体かつ不可分で航空行政権が及ぶために民事訴訟手続きにより空港の使用禁止を請求することはできない、というつまるところ民事訴訟による救済を不可能としたいくらか理不尽なロジックを最高裁は最後に示しています。

話はいつものように横に素っ飛びます。

祖父母や両親が眠っているのは神奈川県です。神奈川には厚木基地というのがありまして、自衛隊の飛行機と米軍の空母が横須賀基地へ来るときには空母艦載の飛行機が飛んできます(逆に空母が横須賀を出港するときには厚木から空母めがけて飛んでゆきます)。大学生の頃に法学部生ゆえに気になって自衛隊機の基地使用差し止め等の訴訟に関しての判決等を追ったのですが、第一審では厚木基地の設置や自衛隊機の運航等は防衛行政権がおよぶゆえその差し止めは民事訴訟手続によって行うことが出来ない(横浜地裁S57・10・20判時1056号26頁)と大阪空港訴訟のロジックが飛び火しているのを確認して「あ゛あ゛あ゛」となっています。

20日付の毎日新聞朝刊に大阪空港訴訟に最高裁判事として関わり少数意見を書いた團藤重光博士が残したノートについての記事が掲載されていました。大阪空港訴訟は團藤博士の所属した第一小法廷に係属し結論をまとめていたものの大法廷回付となった経緯について間接的な行政府の介入が記された記録と感想をノートに直筆で書いていて、詳細は記事をお読みいただきたいのですが、大法廷回付を経ての上記の理不尽な大阪空港訴訟のロジックを知ってるがゆえに「大法廷回付さえなければ…」と思わずにはいられませんでした。

もちろん團藤博士のノートが出て来たところで事態がひっくり返るわけではありません。むしろ裁判官は独立してるとはいえ本来は表に出すべきではないものが出てきちまった感があります。ただ目の前で起きたことに対して書き記すという行為はとても人間臭く、理屈ぬきでよく理解できます。

おそらく多くの人にとってどってことないはずの記事で、しかしかつて追ったテーマなので私は熟読しちまってます。もちろんこの先、おのれの役に立つかといったら役に立ちません。しかし役に立たないことほど引っかかて離さないことってありませんかね、ないかもですが。