開高健記念館『ロッド片手に世界を駈ける』展

開高健さんの小説『貝塚を作る』(新潮文庫・「歩く影たち」所収)の冒頭はベトナムに棲むあるナマズについてです。色はもちろんどんな餌が良いかなどの熱量の高い説明がしばらく続き、次いで戒厳令が明けた朝に釣りに出かけます。肝心の釣果がどうであったかは是非小説をお読みいただくとして、『貝塚を作る』に限らず開高さんの文章の釣りの描写はこちらがそれほど興味が無くても引き込まれるものがあるとわたしは感じます。晩年の作品の『オーパ!』(集英社文庫)は歯科医院の待合室に置いてあって私ははじめてそこで手に取っていて、削る音が苦手でそわそわしてくるのですがは釣りの本のおかげで待ち時間が苦にはなりませんでした…って、私のことはどうでもよくて。

開高さんの釣りに関する展示を特集した『ロッド片手に世界を駈ける』展を茅ヶ崎開高健記念館で現在やっていて(3月26日まで)、日曜に見学しています。

ロッドというのは竿です。竿以外にもルアー(疑似餌)や毛鉤などの釣り用具がこれでもかという程度に並べられていて、特にリール(釣り糸を巻き取る道具)はすぐ使えるように綺麗に糸が巻かれたものもあったほか、(本人にはがんの告知をしていなかったので死を自覚していなかったので整理が中途半端というか)幾つかは雑に扱われた直後のような痕跡があって、勝手な推測ですがおそらくどこかに出かけたあとほぼそのままの状態なのではないかな、と思える状態で展示されていました。特段の解説は無かったもののそれらは「ほんと好きだったんだな」というのを雄弁に語っていたというか。

他にも釣ったイトウなどの魚拓、(ペンで一気呵成に書かれたっぽい修正箇所の無い)釣りに関する文章の原稿の複写、神田明神を筆頭に所持していた御守類の写真、生涯最後の海外での釣りとなってしまった英国のヒューム卿に招かれた際の写真、また本棚には開高さんが編集に関わった釣りに関する本や集めた釣りの図書がさりげなく並べられていて、ガチで「釣り」に傾斜した展示になっていました。

さて、展示されていた図書類で興味深かったのが(開高さんの釣りの写真が使用されている)北欧の釣り具メーカーABU社の1971年版のカタログです。上記の『貝塚を作る』で蔡さんという華僑が主人公を信用するようになるきっかけのアイテムで、正直実物を眺めることが出来るとは思ってなかったのでついまじまじと見入ってしまっています。読んだ本にでてくるものの実物を目にしちまうといくらかテンアゲ状態にになりませんかね…ってならないかもですが。

作品の後背にあるものを堪能し記念館をあとにしました。

軽いテンアゲ状態であったというのもあるのですが茅ヶ崎の海を散策しています。

海がそばに無いところの民なので海を眺めてさらにテンションが上がって近づきすぎ、

数秒後にあわてて逃げています。愚者は経験に学ぶといいますが、なんど経験しても学んでいません…って、愚者よりも頭悪そうなことの証明になりそうなのでこのへんで。