仇討ちもしくは『研辰の討たれ』について

史実はどこまでほんとかは知らないものの赤穂浪士の討ち入りの物語で吉良上野介はイヤなヤツとして描かれることが多く、そして吉良上野介浅野内匠頭に対する扱いはいまもある知識のある人が知識のない人を小バカにするのに似ている気がしてならず、ので斬りつけるのも妙に理解でき個人的には情状酌量の余地もある気がしてならず、なのに喧嘩両成敗にもかかわらず赤穂だけ取り潰されるのも不当に思え、いつのまにか赤穂方の味方をしていて、ゆえに赤穂浪士の物語で本懐を遂げると「よくやった…」感があったりします。そう考える根っこには「イヤなヤツは成敗されるべきである」というのがどこかあるせいかもしれません。実質あほう学部でもいちおう法学部出身なのでいくらか云い難いのですが、私の身体の中には仇討ちの名を付した暴力の肯定が伏流水のように流れています。

話はいつものように横に素っ飛びます。

いまは亡き勘三郎丈が野田秀樹さんと組んで『研辰の討たれ』という歌舞伎を歌舞伎座で上演したことがあります。題に討たれと入っているのでご想像がつくと思いますが仇討ちもので、研ぎ屋から侍になった主人公の守山辰次を勘三郎丈が演じています。不粋なネタバレをお許し願いたいのですが、吉良上野介のような根っからのイヤなヤツは居らず、にもかかわらず仇討ちは成功します。どういうことかを含め詳細はDVDになってるのでそれらでご覧いただくとして。

さらにもう幾ばくかのネタバレをお許し願いたいのですが、イヤなヤツはいませんが強いて言うならば仇討ちと知るや否や態度を変えさらに当事者でもないのにそれを消費しヤジを飛ばす道後の人々がかなり印象に残っています。と同時に、上記に書いたようにわたしも仇討ちの名を付した暴力の肯定が伏流水のように流れていますから仮にその場に居合わせ仇討ちと知ったら同じことをする軽薄さがおのれにもあるなあ…と首筋にスッと冷たい刃物をあてられた触感が当時はありました。

はてなの編集画面に「あれは名作だった」を教えて!というのがここのところずっとでていて、見るたびに浮かんでいたのが『研辰の討たれ』です。もっとも名作ってのはいったいなんなのか,、そもそも名作とはどういうものを指すのか、観ているこちらにいくばくかの内省を求める批評性のあるものは名作といえるのか、無産無知識無教養なので正直わかりません。そしてだれもがこれぞ歌舞伎の名作!というかどうかもわかりません。今週のお題「名作」をひっぱったのに、ねえ、それじゃダメじゃん