年末のごあいさつ(もしくは今年読んだ本について)

「去年今年貫く棒の如きもの」ってのが虚子の俳句にあるのですが、去年と同じなら今年もきつい状態は続くのではないか?と悲観的な予測をして、担当する職務で松が明ける前から虚子の俳句は一切出さずに悲観的になるよう資料を整えはじめ周囲を説き伏せ対策の準備して、詳細は書けぬものの結果的には命拾いしたというか功を奏したものがひとつあるのですが、こういう予測はあたってもちっともうれしくありません。ただ仮に「去年今年貫く棒の如きもの」という虚子の仮説が正しかったとしたら、来年もまた悲観的になってしまいかねず、それはそれできついものがあります。もっとも「去年」と「今年」が「棒のようなもの」っていったって誰も見たことがなく、誰かが観測して存在が確定したわけではありませんから、棒と断定されたわけではありません。もしかしたらバールのようなものかもしれぬわけで…って、そんな話をしたかったわけではなくて。

話はいつものように横に素っ飛びます。

第五波の頃、私が住む東京は一時期連日五千人以上の新規感染者が出ていた時期があります。その頃「感染するかどうかは運次第」というのを見てしまってるのですが、「去年今年貫く棒の如きもの」と同じくらい運というのはあるかどうかあいまいなもので、あるかどうかあいまいないものゆえに「感染しなかったら運が良かった」「感染したら運が悪かった」というようにどこにでもくっつきやすく、非科学的かつ断定があるゆえの理屈ではない妙な力強さがあって、感染予防の行動が意味が無いようにも取れるのでその言説は厄介に感じていました。職務の都合でリモート勢ではありませんからもちろん手洗い励行・マスクをしながら都心部への通勤を継続してて、個人的には「非科学的な運なんかに左右されてたまるかよ」と本気で思っていました。

さらに話は横に素っ飛びます。

第五波の直前の頃には、接種券は来たもののワクチンの目途が一時期たたずにいて、もちろん海を見たかった・アジを食べたかった、というのもあるのですが江ノ島の弁財天へ行って神頼みをしています。その後、8月と9月の第一週にモデルナのワクチンを接種でき、感染もせずに第5波を切り抜けることが出来てます。切り抜けてみると正直なところ「これって江ノ島の弁財天のおかげなのだろうか」と思えてきてしまっています。

「貫く棒の如きもの」を松が明けぬ頃にどこか信じ、さらにワクチン接種と第五波を切り抜けたことを「江ノ島の弁財天のおかげ」と考えてる時点でわたしは非科学的で、しかし「非科学的な運に左右されてたまるかよ」なんて本気で考えていたので、だもんで、これを書いてるやつは矛盾のかたまりです。この1年で人として軸がブレてることを改めて自覚しました。また、どこかわかりやすい理由・おのれが納得しやすい理由を欲しがる弱いところをこの1年、改めて自覚しています。それが矯正可能かどうかはわかりません。たぶん無理かも。

ここ何年か年末に読んだものについて書いてる(はずな)のですが、軸がブレてるやつ・知らぬうちにわかりやすさを求めてるやつ・矛盾のかたまりなやつが、なにを読んだかについて書いても「だからなんだ?」ということになりそうなのですが、今年買った本で強烈に印象に残ったのをノンフィクション・フィクションで2つほど。

 

gustav5.hatenablog.com

ノンフィクションだと「感染症の日本史」(磯田道史・2020・文春新書)です。刊行されたのは去年ですが、読んだのは今年です。関東大震災の死者数よりスペイン風邪の死者数が多かったことや幕末の歴史と感染症が微妙にリンクしてることを恥ずかしながら磯田先生のこの本ではじめて知りました。また感染症が怖いものであったとしても個人レベルで「興味>恐怖」のとき、人は容易に怖いものに近づいてしまうことが描かれてる志賀直哉の流行感冒も取り上げていて、第三波の直後に読んだこともあって、歴史が遠いものではなく地続きというか妙に近くに感じたのを強烈に覚えています。

 

gustav5.hatenablog.com

ちょっと紹介しにくいのですがフィクションだと「やがて君になる」(電撃コミックスNEXT・仲谷鳰・2019年完結全8巻)という女子高生同士の恋愛が主のマンガです。第四波の頃につい手に取ってしまい、巻数を重ねるごとに微妙に変化してゆくのですが、その変化がセリフやコマによってわりと緻密に描かれていて続きが気になり、読んでるうちに度数の高い酒を呑んだようなヒリヒリとした感覚がやめられなくなり、週1ペースで買っています。マンガですが今年読んだフィクションでのなかで、現実を忘れてフィクションの海に溺れる快感という点では、ピカイチでした。

本ついでに書くとずっと追ってるラノベの青ブタの新刊が今年はなく続きが読みたいのに読めない焦らされてる感覚が新鮮で、来年は青ブタの新刊があると良いのですが、って…ちがう、そんなことはどうでもよくて(本音はどうでもよくないのですが)。

くたばらねば来年の今頃は今の状況より状況が改善されてれば良いのですが、もしそうなっていたら来年の今頃に、本のことを含めてこんなふうにくだらないことを書けてるはずです。虚子の仮説のように去年今年貫く棒のようになってるのか、それともバールのようなものになってるのか、まったく違うのか、こればっかりはわかりません。くたばるとしてもギリギリまでここは続けるつもりでいて、いましばらくのお付き合いのほど、よろしくお願い申し上げます。