「やがて君になる」を読んで

匿名を奇貨として書きにくいことを書きます(匿名を奇貨としていつも書きにくいことばかり書いている気がしますが)。

以前citrusという女子高生の恋愛が主題のアニメを途中から偶然視聴しました。原作を買いに行ったときにそばに置いてあって目にしたのが「やがて君になる」(仲谷鳰KADOKAWA電撃コミックスNEXT)です。そういうコミックスがあることは知っていて、でもなぜか手を出さずにいました。はてな今週のお題が「一気読みした漫画」なのですが、第4波に入ってから啓文堂で手をのばしてしまい、週一ペースで買っています。やはり女子高生の恋愛が主題のコミックスで、これを書いているのはくたびれたおっさんで、くたびれたおっさんが女子高生の恋愛模様のコミックスを読んでその感想を述べるというのは冷静に考えると気色悪いことこの上ない気がします。だから単に「面白かったです」で済ませれば平和にすべてが終わりそうな気がするものの、でもそれだけでは終わらすのがもったいない気がするので書きます。くたびれたおっさんがこれを書いてると思うと読む気が失せるでしょうから、しばらくのあいだこれを書いているのが絶世の美青年だと思ってくだされば幸いです。

きわめて不粋なのですが1話の一部を少しだけ書きます。主人公の一人である小糸侑は主人公の一人である生徒会の先輩の七海燈子が男子から告白を受ける場面に遭遇し七海先輩はそれを断るのですが、その理由を聞いて共感します。その後小糸さんは七海先輩から想定外の言葉を投げかけられてしまうのですが、この先は読んでいただくとして。

恋愛というものやその心境変化とかは(誰もが同じ体験をするわけではなく)人それぞれのはずなのですが、しかし小糸さんは(未知の経験ゆえに)どこかに正解があるような気がしてならず、その正解とされそうなものと比較して自らの状況がそれらから遠いことにどこか不安をおぼえていました。1巻ではその描写が極めて巧みです。と、同時に、完璧を装っているように見えた七海先輩は小糸さんと居ることで下品な言葉を使えば少しずつ壊れ・上品な言葉を使えば完璧でないことを少しずつ隠さなくなります。

巻数を追うごとに小糸さんもだんだんと変化しますし、七海先輩は自らを抑える余裕を失ってゆきます。全8巻ですがそこらへんの描写がきわめて巧みで、度数の高い酒を呑んだようなヒリヒリ感を覚えながら最後までダレることなく読み通しています。読んでて改めて自覚したのですが、人が変化してその過程を丹念に追った作品に私は妙に惹かれるようです。これ、映像で見たいなあ、とおもってたら青ブタと同時期(2018年秋)にアニメになっていました。

蛇足なのですが、物語の進行に即してでてくる登場人物がきわめて魅力的です。

一人は七海先輩のそばにいる限りなく主役に近い準主役っぽい佐伯先輩です。七海先輩に頼られることに優越感を持ちつつ、七海先輩が自らの意思で意図的にに距離を縮めようとする小糸さんに対して途中まで複雑な気持ちを抱えます。空気を読んで周囲を見まわして最適解を探して実行してしまう頭が良いゆえの優等生で、もし続編があるのならこの佐伯先輩のを読みたいと思わせる程度に、(私は頭が良くはありませんが判官びいきなとことがあるせいか)不思議と親近感を覚えました。

もう一人は槙くんという表面上は沈着冷静な男の子です。小糸さんと仲が良く、ゆえに小糸さんが抱えてしまったことを誰にも言わない義理堅さをみせるものの、代わりに傍観者として特等席で事態の推移を見守ろうとします。ある意味イヤなやつなのですが、その感想は物語を傍観するこちらにブーメランのように刺さるわけで。

現実逃避っていってしまえばそれまでなのですが、この時期によくできた物語に触れることができたのは・世俗のことを忘れることができたのは、ラッキーだったかも。そう思わせるだけの作品ではあったり。