地下鉄東西線の日本橋駅に隣接するようにいまから20年位前まで東急がありました。いまはコレドという名前の高層ビルになっています。そのもと東急のコレドのそばにたいめいけんという、一階と二階ではメニューが微妙に異なってて一階は二階に比べてカジュアルで価格は安めの洋食屋がありました。過去形で書いたのは今月19日から再開発のために来年3月まで一時休業中になっちまってるからです。
たいめいけんでおそらくいちばん有名なのはタンポポオムライスです。チキンライスの上にオムレツが載っていて、オムレツを開くとほどよい状態のオムレツがチキンライスの上にするするすると広がります。シロウト目にも卵料理は火加減が命であることがわかる程度の、そして良い頃合いがわかる鋭いコックさんがいるのだなとわかる素晴らしい一品で、卵が苦手でまず頼まないのですが死ぬ前に一度くらいは冥途の土産話にチャレンジしてもいいかなと思っています。まだ死ぬつもりはないので頼んでません。
タンポポオムライスのほかにハヤシライスやレバーフライ、メンチカツなどのラインナップもあります。またそれらの料理を頼むと追加50円でボルシチとコールスローを頼むことができます。このボルシチとコールスローは前は確実に違う味でした。特にコールスローは以前ははっきりした味付けであったはずで、池波正太郎さんがコールスローをアテにお酒を呑んでいたというのを大人になって読んで「わかるなあ…」と、とても腑に落ちてます。いまのコールスローの味付けも美味しいです。炊き立ての白いご飯を食べたいかな、と思わせる程度にあとをひきます。50円なのですが今も昔も日本中さがしても同じものはどこにもないかもしれぬコールスローなのです。レシピが公開されてるので今年に入って時間を持て余したとき一度ためしに作ったことがあるのですが、酢か油かが違うみたいで近くまで寄せることができても真似できていません。
たいめいけんは最初は死んだ両親に連れられて、残念ながらそうそうしょっちゅうは行けませんが大人になってからも行列に並んで何度もお世話になってる店です。並んで喰うほどの店なのか・ほかに店を知らないのか、と云われると答えに詰まります。たしかに洋食はわりとどこでも喰えます。しかしどこにでもあるようでどこにもないような、たいめいけんのコールスローやボルシチ、ハヤシなどの味を覚えてしまったので断つことができていません。
なんだろ、美味いものって断つことが難しいようななんどもそれを求めることを繰り返してしまう麻薬的魅力ってありませんかね、って麻薬を打ったことはないのですが。禁断症状は出ないと思いますが、休業明けの来春がちょっと待ち遠しいです。