ニュートリノと反ニュートリノのニュートリノ振動に関する報道

前にも似たようなこと書いたのですが興味ない人にはすっごくつまらない小さな話になります。

物を砕いたとしてこれ以上砕けないという最小単位の粒子を素粒子といい、ニュートリノというのはその素粒子の1種です。電子が電子、ミュウ、タウとわけられるようにニュートリノも対応して電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノの3種類に分けられます。

ニュートリノは軽いので人体も通り抜けますし地面も通り抜けます。地球の裏側から通り抜けてきたミューニュートリノと飛騨神岡のスーパーカミオカンデの検出器の真上から飛んでくるミューニュートリノを比較したとき、通り抜けてきたやつは通り抜けてきてないものの半分しかない、ということが20年前にわかりました。答えを書いちまうとミューニュートリノの半分が地球の裏側から飛んできた間に検出しにくいタウニュートリノに変化した、というように解明されています。説明が厄介なのですけど怒られそうなくらいおおまかにいえばニュートリノ自体が質量に応じた振動数を持った波を持ってて飛距離によって振幅が変化し、地球の裏から来る間にミューニュートリノがタウニュートリノに入れ換わっててしまったわけで。で、その入れかわりをニュートリノ振動といいます。余談ですがそれまで素粒子には質量はないのではないかと思われていたのですが、このニュートリノ振動はニュートリノの質量があるときに起きる現象で、ニュートリノの質量がゼロではないことの証拠になり、結果として研究をしていた東大の宇宙線研究所の梶田先生がノーベル物理学賞を贈られています。

加速器というのをつかって人工のほぼ純粋なミューニュートリノのビームを作ることができます。ミューニュートリノが地球の裏側から飛騨神岡までの間にタウニュートリノに変化しちまうように距離を長く飛ばすと別の種類のニュートリノに変化することは書きましたが、2013年に茨城の東海村から飛騨神岡までほぼ純粋なミュートリノビームを飛ばしたら大部分はタウニュートリノになったのですが一部は電子ニュートリノになっていました。このことからニュートリノ振動が電子ニュートリノ、ミュ―ニュートリノ、タウニュートリノの振動現象であることがわかっています。

ここから話はいくらか大きくなります。

どんな粒子にも質量は同じで電荷などが反対の反粒子というのがあり、ニュートリノにも反ニュートリノというのが存在するのがわかっています。粒子と反粒子を入れ替えてなおかつ鏡写しのように同じ現象が起きれば話ははやいのですが、ほぼ純粋な反ミュートリノビームを東海村で作れるのでそれを飛騨神岡まで飛ばしたところ、大部分は反タウニュートリノになり一部は反電子ニュートリノになってはいるのですが、どういうわけか純粋なニュートリノ(ミューニュートリノビーム)のときと結果が同じではなく異なることが2016年までに判明しています。粒子と反粒子を入れ換えてなおかつ鏡写しのように同じ現象が起きれば話ははやいと書いたのですが、そうではない現象のことを難しい言葉で「CP対称性の破れ」といいます。もしかしてニュートリノと反ニュートリノの間にはこのCP対称性の破れがあるのではないか、ニュートリノと反ニュートリノではニュートリノ振動確率に差異があるのではないか、それはどうしてか、というのがここ数年の高エネルギー加速器研究機構東京大学の実験および研究テーマの一つでした。

今日付けのNHKニュースで

ニュートリノと反ニュートリノではニュートリノ振動確率の差異があるのはどうしてか?」

という従来からの疑問に関連し

東海村から飛騨神岡までの間にニュートリノ振動を起こした(入れ換わった)ニュートリノは90個で反ニュートリノは15個、ニュートリノの場合と反ニュートリノの間にはこれまで確認されていない性質の違いがある可能性が高い」

という報道がなされてました。粒子と反粒子を入れ換えてちっとも同じにならないし鏡写しではないわけで、そして確認されていない性質の違いがある可能性が高いというのは差異がある理由としては腑に落ちます。

さらに話が大きくなります。

宇宙誕生の起源ではビッグバンが起きたときに粒子と反粒子が同じ数だけ生成されたはず、とされてて、しかし宇宙には中性子や陽子はあっても反中性子反陽子は宇宙ではあまり観測されません。鏡写しではちっともない宇宙空間における陽子とほぼない反陽子などの関係はもしかしてニュートリノのCP対称性の破れにあるのでは?という説が以前からあります。ニュートリノと反ニュートリノの差異をしらべることによって従来からのCP対称性の破れを含めての疑問についての解明がすすめば、つきつめれば宇宙の成り立ちの謎や自然界に物質だけなぜ残って反物質がないのか、ということについての手掛かりになりえるものです。

今朝のニュース、宇宙の成り立ちに関係するもので、ちょっとわくわくしました。