カレーの備蓄

去春、磯田道史先生の「感染症の日本史」(文春新書・2020)という本を読んでいます。そのなかで、京都在住の女学生の手記や原敬の日記、志賀直哉の「流行感冒」を引用しながら頁がわりと割かれてるのがおよそ百年前の大正時代の(関東大震災より死者数が多かった)スペイン風邪についてです。ロサンゼルス市当局の対応を総領事が外務省を通じて内務省衛生局に対して伝えられるものの生かされなかったこと(P56)、多くの人が密集する場所の閉鎖は行われず警視庁衛生係が新聞を介して人ごみに行くなと警告する程度であったこと、そしてそのことを与謝野晶子が嘆く文章を紹介しています(P32)。もっとも、ロシア革命が起きて米騒動が起き、原敬内閣は政党政治の頃ですから選挙も気にしなければならず、国民や経済に負担を強いる感染予防の規制はためらいが強かった旨の記載もあります(P58)。そこらへんを読んでいて、いまも政党政治である以上選挙を気にして強い感染予防の対策は取られないのではないか、などと去春から愚考していました。一昨日に東京の新規感染者数が二千人台だったのが今日は四千人台で、仮に去夏以上にもっと増えても、歴史は繰り返すといいますから当時の与謝野晶子の文章の言葉を借りれば「盗人を見てから縄をなうような」対策しかとられないのではあるまいか、という気が。万一、当たってもちっともうれしくありません。

が。

人のこといえるかというと怪しくて、一昨日の新規感染者数を知って昨夜退勤時にヨーカドーによっててはじめにインゲンやブロッコリとかの冷凍野菜やツナやコンビーフなどの缶詰を買い足しはじめたくらいで、これって「盗人を見てから縄をなうような」ものかも。

食べ物ついでにくだらないことを書きます。

私は陰陰滅滅になりそうな状態の時にパンとかジャムとかおいしいものを食べてシャットダウンする習慣があります。でもって、松本楼という洋食屋さんがあってそこのレトルトカレーを力仕事の手伝いのお礼に貰っています。一度も行ったことが無い店でしかし美味しいらしいことと名前だけは知っていて、食べてみたい誘惑がないわけではありません。しかし、これから先陰陰滅滅になりそうな状態になるのが判ってる状態で、さらに社会機能停止の可能性なんて言葉を聞くと保存食品である以上は、いますぐ食べずにしばらく備蓄に回したほうがよいのかなあ…と変に理性が働いちまってます。「漠然とした不安に対する警戒>食べ物への好奇心」ってこと、ないっすかね。ないかもですが。

この先どうなるのか見当もつきませんが、食生活はなるべくおろそかにせず、第六波を乗り切りたいところ。