凍結保存していた亡夫の精子で体外受精し、男児を出産した西日本の40歳代の女性と、その男児が、亡夫の子供としての認知を求めた訴訟

事例はもともとこんな感じでした。 

訴状などによると、女性は、白血病の治療を受け、1999年9月に死亡した夫の凍結保存精子体外受精し、2001年5月に男児を出産。夫の死から300日以上過ぎていたため、嫡出子としての出生届は民法の規定で認められず(民法772条参照。なお死亡というのは婚姻の解消という扱いになるのです)、最高裁などへの抗告も退けられた。このため、非嫡出子(婚外の子)として戸籍を得たうえで昨年6月、「死後認知」を求めて提訴。

松山地裁の上原裕之裁判長は亡夫と男児の法的な親子関係を認めず、請求を棄却した。しかし、遺伝上の父子関係と相違する結果となったことについて、判決は急激に進歩し多様化する生殖補助医療に、欧米と違って日本の法整備が遅れている現状を指摘、今後の論議を促すものとなった。
判決で上原裁判長は「生殖補助医療の発達により、(認知の前提となる)『血縁上の父』の概念も変化を生じさせかねないことになっており、(純粋に遺伝学的な立場から判断するのではなく)社会通念に照らし、法律上の『父』は何かと判断すると、早急に何らかの立法的手当てが行われることが望ましい」と法整備についてふれた。さらに、「立法的手当てがされるまでの間は、社会通念に照らして個別に判断していくほかはない」とした。原告側が主張していた父親の(死後の体外受精についての)生前同意については、認められない、とした。さらに裁判長は「生まれてきた子を、死亡した精子提供者の子と認めることについては、社会的な理解は、いまだに十分に広がっていないと思われる」とした。「死後認知請求が、現行法では、父か母の死後3年間に限られているのに対し、『血縁上の父子関係』を解明する科学的手段が発達していなかった時期に定められたに過ぎず、生殖補助医療の制限期間と解することに問題がある」とした。  


<死後認知> 結婚していない男女の間に生まれた子は、実父との親子関係を裁判で確定することができる。父親が死亡している場合、提訴は、その死後三年以内に限られ、人事訴訟手続法の規定により、被告は検察官が務める。認知されれば、出生時にさかのぼり、扶養など様々な権利が発生する。
民法787条です)
読売新聞記事2003/11/13朝刊より  

現行民法の想定外の親子関係の解釈と、死後の体外受精(死後生殖)に対する亡夫の同意の有無が争点となりました。民法は、父親の死後3年以内の死後認知を認めているのですが、法の規定で被告となった検察側は、死後生殖?による親子関係は、現行では認められないと対立したわけです。  
これに対し女性側は、今回の事態を「想定していないのは法の不備」と主張して男児がすでに生まれた以上は認知して出自を知ることや様々な権利を保障し(たぶん子供の権利条約を意識)子供の福祉を守るべきと訴えさらに女性側は亡夫に生前「自分が死んでも子供を産んでほしい」と頼まれたと主張。検察側は死後の体外受精に関して生前の同意については精子を保存する際に亡夫が医師と交わした「死後は廃棄」と記した書面を挙げて否定。
で、松山地裁は女性の主張を退けました。
ところが次の高松高裁ではこれが見事にひっくり返って、女性側の主張を認めたんですが。http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/WebView2/4F6CC5F054F0140F49256ED3002ECA4C/?OpenDocument


死んだ父親の嫡出子としてわが子を認めてほしいというのはよくわかるのですがDNA鑑定とかならたぶん一発で父子関係を証明できるんですが条文が無い。実は民法には男性死亡後の妊娠と出産というのは想定していないのです。だから松山地裁の判断も妥当だよなあと思います。また受精卵が必ずしも胎児になるわけでもありませんで、しかし私は生まれた子に責はないんだから787条の条文をつかって死後認知を認めてあげても良いのかなあと思うのですが、こんどは相続とかが不安定になってきてしまうわけです。ここでそういう判例作ると、冷凍精子を使っていつでも産める訳ですからそうなったら。例えば百年後とか。

高松高裁のあと上告して、来月最高裁で弁論が始まります。この、最高裁で弁論が始まるというのは高松高裁の判断に変更が加えられる可能性が高いです。7月7日最高裁第2小法庭です。公開するとおもわれます。

おひまな方差し支えなければ六法片手に考えてみてください。3年くらい前にこれを知り私はいまだこれについて結論がでてません。
昨日書きましたがこれなんぞなかなか答えが出ないものの筆頭です。