奈良家裁の人工授精に関する父子関係の判断について(16日一部追記)

民法772条1項に「妻が婚姻中懐胎した子は、夫の子と推定する」とあります。別居であっても条文を素直に読めば婚姻中の男女の間に生まれた子は基本的に婚姻中の男女の子となります。推定する、というのは、推定できない事情があればひっくり返るのです。たとえば収監されてたり、とかです。
奈良家裁で今日、わりと興味深い判断が下りました。別居になる前に夫婦して体外受精に関して病院を受診しており、しかしその後別居にいたり、別居後に男性側の主張によると女性が勝手に書類を代筆して病院に提出し、出産に至り、その後に離婚し、男性側が父子関係を否定するために訴訟を起こして、裁判所は父子関係を否定しなかった事例です。
争点の一つとしては、別居が推定が覆ることになるかなんすが、それだけでは覆りませんでした。民法の772条の婚姻中の男女の間に生まれた子に関しては夫の子と推定すという条文に関して言うと、推定を覆すのがここのとこと厳格化していまして、簡単に答えの出ない親子がなにかということにもつながるのですが、DNA鑑定で血縁関係がありえないとしても法律上の親子関係は否定されない判断を2014年7月に最高裁がしていて、奈良家裁も本人の意思よりもどちらかというと親子関係を安定させたい判断が働いたのかなあ、と。
もうひとつ争点があるとしたら、男性の意思が介在することに関してで、以前松山で冷凍した精子を使って夫の死後に出産した事例(H17・9・4)があり強制認知の条文をつかって父子関係を争ったのですが、最高裁はその子と死んだ父親の父子関係を認めませんでした。その判決書きの中に「自然生殖による懐胎は夫の意思によるものと認められるところ、夫の意思にかかわらずその保存精子を用いた人工生殖により妻が懐胎し、出産した子のすべてが認知の対象となるとすると、夫の意思が全く介在することなく、夫と法律上の親子関係が生じる可能性のある子が出生することとなり、夫に予想外の重い責任を課すこととなって相当ではない」と述べていて、ああこれが最高裁の意見なのかと印象に残っていて、それを踏まえると今回の奈良家裁のケースは男性側の意志が介在していないなら父子関係を認めないであろう、と思っていました。なので奈良家裁の判断はちょっと意外でした。
個人的には奈良家裁の判断は理解できなくはないものの、本人の意思の不在によって親子関係ができることに関しては違和感がありますって私の見解はどうでもいいのですが、16日の毎日東京版を読むと高裁へ係属しそうで、高裁の判断がどうなるか注目したいところです。生殖医療の進歩とともにこういう案件は増えてゆくのかもしれませんが。