300日特例措置

離婚後300日特例措置、きょうから市区町村窓口で開始
5月21日付読売新聞より転載


離婚後300日以内に生まれた子を一律に「前夫の子」とみなす民法規定(嫡出推定)の問題で、法務省が通達を出した特例措置の受け付けが21日から、全国市区町村の戸籍窓口で始まる。医師が作成した証明書を出生届に添付し、離婚後妊娠が確認できれば、「再婚相手の子」か、再婚していない場合は「非嫡出子」としての届け出を受理する。証明書には、
〈1〉妊娠の推定時期
〈2〉推定時期算出の根拠(超音波検査や生殖補助医療の実施日など)
――を記す必要がある。法務省通達に基づく特例措置による受理であることを明示するため、戸籍の特記事項欄には「嫡出推定が及ばない」と記載される。

(嫡出の推定)
第七百七十二条  妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2  婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
(嫡出の否認)
第七百七十四条  第七百七十二条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。



今の民法では、婚姻中に妻が妊娠した子は夫の子と推定され、離婚後三百日以内に生まれた子は前の婚姻中に妊娠したものと推定されます。これを嫡出推定といいます。趣旨は、婚姻中に妻が妊娠した子はおよそ通常は夫の子であるはずで、そのように推定して簡単には覆せないようにすることがおよそ家庭の平和にもつながり、また子の地位も安定するというところにあります。この子の父は誰なの??というのをなるべく回避したいのです。
で、離婚を経て再婚相手と生活を共にして妊娠して再婚相手を父として出生届を出そうとすると出産が離婚後三百日以内のときはその出生届を受理されません。離婚から三百日以内に生まれた子どもは民法772条の規定により、一律に「前夫の子」として届け出を出すことになっているからです。
で、前夫の子となるのを拒み出生届を出さずに、無戸籍となっている場合があってなんとかせねば、ということで自民と公明の与党プロジェクトチームが民法を全面的に見直し、DNA鑑定や陳述書などで親子関係が認められれば三百日以内に生まれた子どもでも現夫の子とする特例新法を作ろう、としたのですが反発が多く、結果、法務省は通達を出し、
[離婚後三百日以内に生まれた子でも母親が離婚後に妊娠したことを示す医師の証明書があれば現夫の子または非嫡出子として出生届を受理する]
ということになりました(記事中にもありますが、戸籍に例外ゆえの特記事項として「民法七七二条の推定が及ばない」と特別な記述が残ります)。「婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」という条文の中の「推定」を取消す書類があるのならば、つまり婚姻中に妊娠したわけではない離婚後の妊娠であることが医師の証明書で確認できれば、嫡出推定を打ち消してそれを尊重しよう、ということです。条文を素直に読んで「みなす」じゃなく、「推定す」だから証拠があれば覆してもオッケイよ、なのです。
離婚後に再婚・妊娠をした人でも、早産となっちまい、法的に手順を踏んだはずなのに前夫と調停(裁判)を起こす必要性があった人が今回の通達の射程距離です。

離婚前に再婚相手の子を妊娠した場合はこれまで通り前夫の子として戸籍が作られます。それを変更するためには家庭裁判所で親子関係の不存在を確認する調停(裁判)を行わなければならないです。


実は新法を審議中に政府側から前夫との婚姻中に夫以外の子どもを妊娠するのは貞操義務に反するとして、離婚後三百日以内に生まれた子を現夫の子とすることに強く反対する声がありました。事実上不倫の子を認めてしまっていいのか?ということでもあるとおもうのです。個人的にはちょっと説得力があるかなーと思っていました。出来ちゃった婚があるわけですから出来ちゃった再婚というのがあってもかまわない、といえばかまわないかもです。また、文学的に「好きになったから仕方がないじゃない!」なんて云われるとわからないでもないですが、それを是認して良いのかな?と。道徳的倫理的なことですが、建前として本来は夫婦はお互いに貞操を守る義務があり、夫婦の一方が他人と不貞行為を行うと貞操義務に違反しその夫婦の離婚原因になりえますし、夫婦の一方と他人が情交関係を結んだ場合は夫婦のもう片方に対し共同して不法行為をしたことになり民事で損害賠償の義務が生じてくる可能性があります。それらのことを考えると前の夫との婚姻中に他人の子を妊娠し、かつ、その子に新しい夫の子という身分を子供について原則としてほんとに与えちまっていいのでしょうか?ということなのです。ただ、不貞行為はほんとはあくまでも夫婦間のみの問題かもしれません。子の戸籍に影響さすのは考え方としてまずいかもで、無関係であるべきでしょう。しかし、無視はできない問題かなとは思います。
もっとも婚姻中の夫婦が懐胎した子はその夫婦の子である、という建前は維持すべきじゃないかな、とは思うんですが。混乱を回避するために。
ただ婚姻中であっても夫婦関係が完全に破綻している場合など夫以外の男性との間に子をもうけることが一概に不貞行為といいきれるのか?という場合もあるので悩ましいところです。また、離婚に際して前夫の立場からすれば自分の子じゃないのに父と推定されることなどたぶん期待したりはしないでしょう。当事者が望んでないのにほんとの父でない者の名が父として戸籍に記載されるのが好ましいか?といわれると、考え込んじまうのですが(もちろんその救済処置として774条があるのですが)。

医学の進歩で誰の子であるか確定できるのだから生物学上の父の子と認めるべきだという考え方があり、わからないではないですが、仮に出生届とともにDNA鑑定の結果を持って行ってこれは正しい証拠です、といったところで自治体には裁判所と違って形式的な審査の権限しかないですから裁判所とちがって役所が本人のものかとかその妥当性の是非を判断するのは妥当出でないような気がするのです(と、同時にその鑑定書の取り扱いに関して公がそれを知ることについてプライバシーとか関係するんじゃないかと思います考えすぎかもですが)。また、余計なお世話ですが鑑定の結果が親子だと思ってたのに予想に反する結果が出た場合どうするのかな?ちうのもあるのですが。

 

まったく個人的な感想ですが、冷静に考えて欲しいのですが、前の夫との婚姻中に他人と避妊をせずに寝てしまうとか、前の夫との離婚直後に避妊をせずに行為をすれば、生まれてくる子の父親が誰かとか対外的に証明しにくいきわめて不安定なところがでてくることは普通は判ると思うのです。きつい意見ですが、それをわかってて回避せずに、というのはどんなものかなー、というのもあります。いわゆるドメスティックバイオレンス絡みや諸般の事情はわかるのですが、私はここで今までの原則をこれ以上変えないほうが良いとは思うのです。婚姻中に夫以外の男性の子を妊娠し、出産した場合は、やはり、いまある民法人事訴訟法で処理すべきでしょう。前夫との親子関係不存在確認の訴えか、嫡出否認の訴えになるんですが、嫡出否認の訴えの原告は原則として夫にのみ認められます。前の夫の側から子の扶養義務を否定したりするためのもので子に不利益なものゆえに子供の利益を守る前提から(父子関係を安定させたいので)前の夫が子の出生を知ったときから1年以内にしか認められません。で、前の夫の側から訴えを起こさせなければならないため、先方が非協力的である場合や接点を持ちたくない場合にはつかえない。親子関係不存在確認の訴えも海外赴任とかの外観上懐胎(妊娠)が不可能であることが明白でないときなどたぶん、やはり前夫の協力(証言)が不可欠になるはずで、長引くことになります。これらの当事者の負担減を検討すべきだとはおもいますが。