鯖寿司の記憶

たしか大学生の頃、親戚の葬儀のときに、なんでもいいから出来合いのものを何名分か買ってこいといわれてお金を渡されて、開いていた京樽だったか茶月だったか店名はあいまいなのだけど、いくつか寿司を買ってきました。その中にバッテラがあって、死んだ父は打ち合わせをしながら目はバッテラに向かい、こっそりバッテラだけを手許にもってきて死守していました。私の顔をみて「よくやった」という視線を小さく頷きながら送ってきたのですが、死んだ父がバッテラが好きであったのかどうかは訊いたことは無いのでわかりません。もちろん死んだ父と寿司屋に行ったことも無いです。

社会人になってから最初に放り込まれたのは大阪です。死んだ父も死んだ母も京都で八つ橋であるとか名古屋でういろうであるとかありきたりなものを買って帰るような真似をすることを嫌う人種で、なので東京に戻るときに阪神千鳥饅頭を買うわけにもいきませんでした。怒られそうなことを書くと大阪というのはそういう点で土産物にいくらか困る街で、悩んだ挙句551の豚まんのほかにバッテラのことを思い出して鯖寿司を買っています。鯖寿司が大阪の名物かどうかはそのときは考えもしませんでした。でも「天下の台所たる大阪で不味いわけが無かろう」と判断してのことです。その後もその組み合わせで買ったことがあります。

おそらくその店の鯖寿司は口にあったのだろうと思いたいです。が、鯖寿司の鯖の部分を炙って食べると美味しいとか、京都には鯖寿司の美味しい店があるとか、両親が居なくなってからそれらを知りました。溶き卵にお寿司…じゃねえ、時すでに遅しで、鯖寿司には「あのときもっとリサーチしとけば親孝行になったのではないか」という若干の後悔の念があります。

藤沢駅には鯵の押し寿司が駅弁として売っています。昔からあったものかどうかはわからぬものの鯖寿司のラインナップがあることに少し前に気がつきました。しかし鯖寿司には上記のような複雑な記憶がよみがえるので、この前もちょっと強めの〆加減の鯵のほうを買いました。もっとも藤沢の駅弁屋さんはハムとチーズのサンドウィッチがなぜか美味しいので、あったらそっちをとってしまいがちです。はてな今週のお題が「寿司」な(のでつらつら書いてきた)のに、それじゃダメじゃん