映画『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』を視聴して

ここ数年ずっと追っている「青春ブタ野郎シリーズ」の映画『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』をこの週末に観覧してきました。登場人物が分裂するわけでもなく同じ日が何度も繰り返されるわけでもない地味な物語なのですが最後まで観ちまっています…という月並みな感想で終わらせると楽なのですが、めんどくさいけど書きます。

幾ばくかのネタバレをお許しください。本作はテレビアニメで放映した『バニーガール先輩』の後日談で、主人公である梓川咲太の妹で以前は不登校気味で引きこもりでもあった梓川花楓の受験がメインの物語です。

神奈川の入試はア・テストといって高校受験が独特だった影響もあって原作の表現を借りれば内申点が4割から5割を占め入試当日のテストが4割程度で、つまるところ内申点が期待できない引きこもり少女であった花楓ちゃんにとってちょっと厳しいシステムです。にもかかわらず、花楓ちゃんは「みんなと同じ」がいいと述べ兄の通う学校に行きたいと希望を述べます。その希望を叶えるべく咲太(数学)はもちろん、咲太の恋人である桜島先輩(現国)や桜島先輩の妹である豊浜のどか(英語)も得意分野で勉強をみるなど協力します。花楓ちゃんの奮闘や受験の合否を含めどうなったかは是非本作をごらんいたくが原作を読んでいただいて確認願いたいところであったり。

ところで、青ブタでは伏流水のように奥底に流れてるテーマがいくつかあって、そのうちのひとつが「みんな」です。本作でも志望校を決めるにあたり花楓ちゃんは「みんなと同じ」ということ意識しています。しかし言葉というのはその言葉の意味を問うても明確には答えられなかったりすることがあって、実は花楓ちゃんが意識していた「みんな」もそのひとつです。たとえば咲太もその問題にぶつかっていて

右に倣えの生き方は楽でいい。いいこと、悪いことの判断も全部自分でするのはカロリーを使うし、自分の意見を持つと、否定されたときに傷つくことになる。その点、『みんな』と一緒であれば、安心、安全でいられる。見たくないものを見ずにいられる。考えたくないことを考えずにいられる。

鴨志田一・「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」・P317)

と解を出し、そのうえで「だいたい、『みんな』とは誰だ」という問いに達して行動を起こしています。もう幾ばくかのネタバレをお許し願いたいのですが結果としてこの「みんな」とはなにか?問題が兄同様に花楓ちゃんを変容させてゆきます。やはり詳細は本作をご覧いただくか原作をお読みいただくとして、キモだと思っていた部分が端折られずに映像でも残っていたのでホッとしています。

以下、些細なことをいくつか。

どうしてそうなったのかは本作をご覧いただくか原作をお読みいただきたいのですが、作中、心を閉ざしかけてる花楓との対話の継続をなんとかして試みようとする咲太に担任が声をかけてしまうシーンがあります。予期せぬ邪魔が入ったせいか振り返ったときの咲太の憤怒の表情がなんとも形容しがたい兄妹間の絆の深さを感じさせ、文字では限界のある映像にしかできない説得力のある表現で、唸らされています。他にも、咲太のバイト先であるファミレスで受験を前に咲太がバイトを辞めてしまうのではないかと一瞬不安になった後輩である古賀さんの、咲太がバイトを継続すると判ったとたんの表情が、古賀さんと咲太との先輩後輩以上の関係性の深さを感じさせ、それはやはり文字では限界のある映像にしかできない表現で、唸らされています。さらに蛇足ですが、花楓ちゃんがファミレスでデミグラスソースのかかったオムライスを食べて咲太が花楓が戻る前のかえでちゃんを想起するシーンがあるのですがそのときの花楓ちゃんがいてもかえでちゃんが居ない悲しみがゼロではないわけではない咲太の表情が、やはりこれまた文字では限界がある映像でしかできないと思われる表現で、唸らされています。

それらの唸らされる描写がところどころにあったせいか、受験というかなり地味な題材であったにもかかわらず・原作を先行して読んでいて物語がどうなるかも知っていたにもかかわらず、くりかえしますが最後まで飽きずに観覧しています。ほんと制作陣に脱帽です。

ただ一点だけどうしても引っかかったのが広川卯月役の声優さんです。花楓ちゃんや咲太役の声優さんが喜怒哀楽に応じて声音や声量を変えたりしてメリハリをつけていたにもかかわらず、広川さん役の声優さんだけはなぜかそれらのメリハリが無く聴こえ、正直浮いているというか違和感がありました。ほんとはこういうことを書いちゃいけないのかもしれませんし、アニメに詳しくないし加えてアニメの感想の書き方がよくわからないので、このへんで。