幕見席から眺めてた役者の悲しい報道に接して

何年前だか思い出せないもののシェイクスピア十二夜を蜷川さんの演出で歌舞伎にしたものを観たことがあります。もちろん安い幕見席で席にはありつけず、面白くなかったらすぐ出るつもりでいて、しかし壁によっかかりながら最後まで観ちまっています。その十二夜の主演は尾上菊五郎丈と尾上菊之助丈で、しかし脇役にもかかわらず長丁場の芝居で観客を飽きさせず主役を喰いかねぬ動きをして印象に残ったのが市川左團次丈と当時市川亀治郎と名乗っていた当代の猿之助丈で、以降、気になる役者の一人になりました。

全ての芝居を観ているわけでもないし後援会に入っているわけでもないので推しとか贔屓とか云えるほどではありません。が、亀治郎時代に信玄公役で出ていた「風林火山」を数年前に再放送していた際にNHK甲府局が甲府駅北口に看板を出していて、しかし亀次郎表記になっていたので「なんぼなんでも」と間違いを帰りの特急まで時間があったので甲府局に指摘しに行ったことはあります。完全に他人事なのですが、それほどのことをしたくなる程度に観るほうを唸らせる稀有な役者だと思っていました。ああこの人の芝居なら時間を割いて観にいってもいいしお金を落としてもいいな、と思えたので、浅草や歌舞伎座へ足を運んでいます。

顔見知りでもなんでもないものの(そしてそれほど年が離れてないというのもあるのですが)悲しい報道を耳にして、数秒ほどですがさすがに頭の中が真っ白になっています。稀有な役者だと思えるゆえにいつかもういちど舞台で、とも思っちまったのですがそれはともかく、いまは回復を願うばかりであったり。