『装いの力-異性装の日本史』展を見学して

いまから30年近く前に高校の時の文化祭で女装コンテストというのがあり実行委員会であったがゆえに本選に出ない条件で軽いノリではじめて化粧をし、そのときに後輩に「かわいい」と云われて以降は一切私は化粧はもちろん、異性の格好などをしたことがありません。しようと思ったこともありません。ただ最近コスプレという題材を扱う『その着せ替え人形は恋をする』という作品を知り限りなく異性に似せるコスプレの技術を知ってから、「男を男として認識するのはなにか」もしくは「女を女として認識するのはなにか」、それが服装なのか所作なのか、ということ考えるようになってしまっています(…しまっています?)。だもんで、渋谷の松濤美術館で異性装に関する展覧会があると知り興味があったので、手術前の検査の予定が入ってたを奇貨として帰路についでに見学しています。

本展覧会は簡単に書くと異性装を軸にした日本史の復習です。簡単に書かずに複雑に書くと、ヤマトタケルノミコトが女装して熊襲を討った(神話上の)出来事からはじまり、とりかえばや物語や歌舞伎の白波五人男の弁天小僧など有名どころを押さえつつ、『リボンの騎士』や(存在だけは知っている)『ストップ!!ひばりくん!』を経てドラァグクイーンまで異性装というものが日本に浸透していたこと・受容されていたことを資料を駆使してこれでもかと浮かび上がらせています。詳細は是非現地でご覧いただきたいところなのですが。

江戸時代から明治にかけての錦絵の展示がわりと充実していて歌舞伎に若干の興味があるのでそこらへんについて、ついまじまじと眺めていました。弁天小僧に限らず歌舞伎は江戸期も今も男の役者が女性の格好をしますが、いまも続く神田祭山王祭の際には以前は女性の芸者が男性の歌舞伎役者の真似をして男装をすることがあったらしくそれが錦絵として残ってて複数展示されていて、正直その習慣を知らなかったので驚愕しています。また𠮷原の遊女が男装して即興で歌舞伎の助六などの俄芝居をしていた錦絵が複数展示されてて「なにそれ時空を超えてちょっと見てみたい…」と正直思ってしまっています。話を戻すと、江戸期の江戸においては女性の男装は現在よりも受容されていたのは確実なようで。もちろん当事者はそれらの服を着たいと思って来ていたわけではなく、業務の一環として服を着ていた可能性が限りなく高いのですが。

江戸の後の明治期に現在の軽犯罪法に相当する違式詿違条例が制定され異性の服装の着用が一時的に規制されたことに触れその影響がかなりあったことを踏まえつつ、明治以降の異性装の歴史もかなりのスペースが割かれています。個人的に印象に残ったのはファッションに関することで、微妙に関連して無さそうで関連してることとしてセーラーが男性水兵の服装であったにも関わらずなぜ女子学生の服になったのか?について、通学するための制服を自作するにあたってセーラー服は作りやすかったのではないかという仮説を提示してて「ああなるほど」と思わされています。しかし前提として当事者や当事者以外に、つまり日本の社会に異性の服装を受容する素地がなかったら難しかったはずで、延長線上にあるのかと思うと目からウロコでした。似たような事例として黒系の女性用のジャケット(とタイトスカート)が展示されていてやはりそれは「紳士もののスーツの影響があるよなあ」と思えてしまうのですがそのジャケットもセーラー同様に異性の服装であってもそれを積極的に取り入れる素地があればこそ、のはずです。もちろん着たかったから着たというわけではなくて、必要に駆られてそうなった可能性があるのですが。

さて、私が持っている「男を男として認識するのはなにか」もしくは「女を女として認識するのはなにか」というくだらぬ疑問の直接の答えこそなかったものの、展示を眺めていてこの国は服装に関しては男女の境界というのは比較的あいまいなのではないか、特に女性が男性の服を着ることに関してだけはなぜか受容されやすいのではないか、という仮説を持ちました。とはいうものの、繰り返しますが特にセーラーなどは「本人が着たかったから」というよりも「必要にかられて」という側面はないわけではないはずです。

なお館内には現在の男装女装に関しての展示もあります。どちらかというと「必要にかられて」ではなくて「本人が着たいから着ている」という側面の強いものです。それらは洗練されてるかというとあまりそんなことはありません。しかしどこか力強いです。それを眺めてて、現在になって日本人は男らしさとか女らしさとかあるべき規範からやっと一部が解放されたのかもしれないな、という感想を持っています。もしかしたらかなり的外れなことを書いてるかもしれませんが。

ジェンダーとかサブカルチャーに詳しかったらもっと語れるものがあるのかもしてませんが残念ながら詳しくないのでこのへんで。ただ予備知識がなくても解説文が比較的充実してるので見応えはかなりありました。なお会期は10月30日まで。