「Just Because!」を読んで

「Just Because!」(鴨志田一メディアワークス文庫・2017)を読みました。面白かったです…で、済ますのはもったいないので書きます。

いくばくかのネタバレをお許しいただきたいのですが、本書は福岡から数年ぶりに地元に戻ってきた・転校してきた主人公の泉瑛太瑛太と中学時代同級生でほのかに好意を抱いてる夏目美緒、美緒がほのかな恋心を抱いている瑛太と仲の良い相馬春斗、相馬が片思いしている森川葉月、被写体として瑛太に興味を持った一学年下の小宮恵那の5人の、高校3年(小宮さんは高2)の冬から春にかけての物語です。詳細は物語をお読みいただくとして、劇的な展開がないかわりに「何故そういうことになったのか」ということの詳細が丁寧に明快に書かれてるので「え?どうなるの」と物語の展開に関心を持ち続けながら飽きることなく最後まで一気に読めました(ただし最後がちょっと呆気なかった気が)。

さて、物語の最初のほうで泉くんと相馬くんは再会していきなり一打席勝負をします(P19)。なぜそんな勝負をしてるかといえば再度の小さなネタバレをご容赦願いたいのですが相馬くんが片思いの相手に告白するかどうかを迷ってて願掛けを兼ねて、です。どうなったかの結果はやはり物語をお読みいただきたいのですが、それを知らぬ泉くんは手を抜かずに全力投球し、相馬くんも本気で振ります。「〇〇が成就したら××をする」という、関係のないどうなるかわからない不確定なものを条件に付けつつ(その条件付けは児戯にも等しいのは否めないけど)、その成就のために自力でなんとかできる部分を取り込んで全力で取り組む姿勢が、なんだかとても好ましく思えました。そしてこの物語の底に流れてるのは、相馬くんに限らず成就したい目標を得たとき、自ら決めたことへの全力投球です。泉くんもいったん決めるとおのれを変えつつ自力でなんとかしようとします。根っこは恋愛小説っぽいのですが相馬くんや泉くん、小宮さんほか登場人物の全力投球とその変化がまったく別の風味を加えています。

現在、この物語のアニメ版がBSフジとMXで放映・再放送中です。内容は微妙に異なっているように思えるので、どちらを先にしてもおそらく首尾よく物語の海に沈めるはずです。なお著者は藤沢を舞台にした青ブタの著者なので

やはり藤沢や江ノ島が出てきます。念のため書いておくと「周囲に認識されなくなった」りとか「同じ日を何度も繰り返す」とかはありません。

最後にくだらないことを。(なぜそんなことをしたかは物語をお読みいただきたいのですが)混雑した東海道線の車中で泉くんが夏目さんに日本史の問題を出すシーンがあります。そらで淀みなく問題を出す泉くんも間髪入れずに即答する夏目さんも「すげー」というか、相当勉強したんだな、というのが推測できます。その中で

日本書紀には官人の日記が引用されているが、唐へ派遣されたときの記録を残したのは誰?」

「伊吉博徳」

(P207)

という問答があって、恥ずかしながらそんな日記があるのも知らず、当然答えもわかりませんでした。大学受験からもうちょっとで30年ですから傾向等も変わり解けなくて当たり前かもしれませんが日本史はいまでも不思議と自信があったので、青春は遠くになりにけりというのを含め、妙な敗北感があったり。