「専門医が教える新型コロナ・感染症の本当の話」を読んで

「専門医が教える新型コロナ・感染症の本当の話」(忽那賢志・幻冬舎文庫・2021)を読みました。たいへん勉強になりました、で終わらすには惜しいので、書きます。

感染症の本当の話、と題名にあるように「感染とはなにか」というところから本書ははじまります(P16)。感染症の感染経路、ウイルスや細菌との差や風邪になぜ抗菌剤が効かないのかなどを含め、詳細は本書をお読みいただきたいのですが読むこちらの知識の欠損がある場合、それらを補うように丁寧に書かれています。たとえは悪いのですがそれらは丁寧な前戯みたいなものでのちのち新型コロナに関する記述を読むときに苦も無く・ぬるっと入ってくる伏線になっています。

題名にもあるように新型コロナに関するトピックもある程度のボリュームがあるのですが、それ以外のインフルエンザ(P43)や風疹(P58)、蚊が媒介する日本脳炎(P68)やデング熱(P71)などの感染症についても症状や治療法について簡潔かつわかりやすく触れられています。無知をさらすときわめて身近に存在するダニが媒介する感染症(P73)などは正直この本を読むまではまったく知りませんでした。

いくらか脱線して自らの無知をさらにさらします。

エイズ(P87)に関しては多少の知識はあったものの、梅毒(P79)という言葉を知ってはいても罹患したことが無いので実はどういう症状が出てどういう状況下で感染するか、というのは知りませんでした。淋病とグラジミア(P80)も同様で罹患したことが無いので今回はじめて知識を得ています。やはり詳細は本書をお読みいただきたいのですがこれらの知識は10代後半に知りたかったな、という気が。私のいた学校がすっ飛ばしただけかもしれないのですが。

話をもとに戻します。

本書では新型コロナについては(場合によってはインフルエンザなどと比較しながら)症状やワクチンの見通し、後遺症、いわゆる変異株等について詳細に丁寧に2021年2月の段階で判明していることが述べられています。詳細はやはり本書をお読みいただくとして。

また(新型コロナに限らず)「感染はどうやって防げるのか」ということについてもまとめられています。当然感染経路ごとに違うのですが、新型コロナやインフルエンザでは手と指を清潔にすること≒手洗いなど(P167)とマスク(P172)になるのですが、マスクについてひとつだけ気になったのが

マスクの着用の注意点としてもう一点、同じマスクを長時間に渡って着用し続けるのはよくありません。電車内で人の飛沫を浴びたり、あちこち触れた手でマスクに触ったりすることでマスクが汚染されていきます。したがって、外出先からオフィスに戻ったタイミングなどを見計らって、できるだけこまめにマスクを交換するようにしましょう。

マスク着用はたしかに有効な感染防止策ですが「とにかくマスクをすればよい」というものでは決してありません。

 「専門医が教える 新型コロナ・感染症の本当の話」P174

という点です。「とにかくマスクをすればよい」と思っていたわけではありませんが、正直、これを読むまでは出勤時から帰宅するまで不織布マスク1枚で通していました。マスクが安くなってるのを奇貨として読んでからは1日2枚使うようになっています。もしかしたらもっと換えたほうが良いのかもしれません。でもって、もうちょっとこのことが知られても良いような気がするのですが、そうではないことのもどかしさがあったり。

本書では体験に基づいたことも赤裸々に書かれています。百パーセントの信頼できる検査などないとしたうえで、性行為が考えにくい小学生に虫垂炎の術前検査の一環でHIVウイルスの検査をしたら陽性反応が出た事例を述べています。忽那先生の居た病院がどうしたかを含めて本書をお読みいただきたいのですが、検査に百パーセントの信頼性がないときに「とりあえず検査」をすることが良いとは限らない(P218)わけで、検査の限界とその対応も触れられています。

あとがきには「コロナに終わりがあるのか」という副題がついていました。「まあしばらく無理だろう…」と予測しながら読みすすめると、ワクチンに期待しつつ変異株の出現に触れつつ

ワクチンは変異株に合わせたものに修正して製造することができると言われていますが、ウイルスの変異とワクチンとのイタチごっこが始まってしまう可能性もあります。

「専門医が教える 新型コロナ・感染症の本当の話」P261

可能性の問題として悪い方向の話もきちん触れています。手洗いやマスク着用、三密を避けよう、という結論に至るのですが、悪い予測も載せる点でもしかしたら誠実なドクタなのかな、と勝手に想像しています。

本書は個人的にはおぼろげだった知識がある程度クリアになっていて、買っておいて勉強になった一冊でした。また、新型コロナの症状や風邪などとの症状の差異(P196)、自宅療養時に息切れ・息苦しくなったら危険信号(P133)などのもし罹患してしまった時のことも載ってるので、しばらく本棚の判りやすい位置に置いておくつもりです