「電気羊かってなかった…」4

 ドレミの歌をご存じだろうか?知ってるよね、じゃあ、ドレミの歌以外のペギー葉山さんの曲を知ってる?うん、ダイジョウブ、私もほとんど知らない。でね、ドレミの歌以外で唯一知ってるのが「調子をそろえてクリック・クリック・クリック」という曲。元は外国の民謡で、クリックはマウスじゃなくてカチッとかそういうハサミの擬音です。なぜか小学校のときにこの曲が6年間給食の時間によく流れていた。私は機嫌がいいと耳にこびりついたこの歌をよく口ずさんでいることがある。先日もえっちなことのあとシャワーを浴びながらクリッククリッククリックって歌ってたよ?と指摘されたくらい。別にえっちなことをしたわけではないのだけど、難産だったレポートを提出できたのでワイン片手に、つい口ずさんでいた。

調子をそろえてクリッククリッククリック

ハサミの音もかろやかに

自慢のその手で鮮やかに

そらたっちまっち羊は丸はっだか、と。

次の瞬間、物音がした。

その方向を向くと電気羊があとずさりながら怯えた目でこちらをみている。しまった!と思ってもすでに遅い。いや、キミを丸裸にしようとしようなんて考えてないんだ、って釈明しても怯えた目は変らない。そもそもそういう趣味は…と言いかけてどんな趣味だよと言葉を飲んだ。なに言ってるんだおれ。ああ、電気羊の眼が軽蔑のまなざしに変わるのが手に取るようにわかる。どうしよう…

そこで目が覚めた。調子をそろえてクリッククリッククリックのメロディを奏でながらめざましが鳴っていた。電気羊飼ってなかった…

(訳詞は音羽たかしさんのものを参考にしています)

Click Go the Shears(邦題「調子をそろえてクリッククリッククリック」)の曲を知らないと意味不明になってしまう、「誰もが知っている言葉で書く」という原則に反するかもしれない小咄です。この小咄を書いたあとに布団の中で笑ったという反応を貰って、なんだか安堵した記憶があります。でもってベースにあるのは火の粉がかからぬ他人の危機はやはり笑いになるのではないか・危機と笑いは紙一重なのではないか、という疑問をかたちを変えて出しています。笑いってその底にいつも別のものが潜んでるのではないか、ってのが拭えないのですがって、話がズレた。

上の小咄に限らないことですが(実はまだ何個かある)、笑わすために書いたもので笑ってもらったり好意的な反応をはてなハイクで貰ったおかげで(さらにダイアリに載せて読んで反応をいただいたおかげで)、おのれの書いた言葉や文章も第三者に通じてるのかもしれぬなという確信をいまのところより深めています。

ご笑覧いただきありがとうございました。