「電気羊かってなかった…」2

「じゃあ、こんど楠田くん(仮)の家にあがらせてもらうね」

と今夜彼女は云った。もちろんまだ恋人ではない。あ、なんとなく話が合いそうで居て楽しいな、と気が付いたのでSNSのidも既に交換していて、今夜は居酒屋でザンギを前に、ザンギやから揚げににレモンをかけるか否かという些細なことから揚げ物談義ははじまり、先日から揚げを自作したけどカリッとしないでべちゃべちゃになってしまった、という話をしたらわりと具体的なアドバイスを貰った。謝意を述べながら「詳しいね?」と至極あたりさわりのないことをいったのだけど「揚げ物得意だから」というので「へええじゃあ今度コーチしてよ」とものの弾みで云ってしまったわけで。そこから冒頭の言葉のように(コーチとして)うちに来る、ということになった。会計のあと別れ際、酔っぱらってたので「コーチ、よろしくおねがいしまっす」とふざけて軽く挙手敬礼したら「ビシバシしごくよ」だって。ふふ、おれ、しごかれるみたい。でもちょっと嬉しいかな。もしかしてこれって久しぶりの新しい春の予感ってやつ?つか、冬が長かったな。なんとなく夜道を鼻歌うたいながら歩いて帰って玄関を開けて、電気をつけてみると、いつもの場所で横たわって微睡んでいる電気羊がいた。そうだった、うちには電気羊がいるんだった。

どうしよう。

正直は最善の策というから電気羊をちゃんと紹介すべきだろうか。つか、紹介したとしても電気羊を理解してくれるだろうか。猫なら「かわいー」っていってくれるかもしれないが、羊はどうだろう?かわいくもなければ愛嬌振りまくやつでもないし。つか羊飼いじゃないのに羊飼ってるって変な奴って思われないか?ああ違う違う、羊じゃねえ、こいつは電気羊だ。しかしなんで電気羊と暮らしてるの?っていわれたらどうしよう。あのコーチ、そこらへん鋭そうなんだよな。そう考えると電気羊をいまは見せないほうが良いか。そのうち紹介しよう。じゃあこんどコーチが来る間だけ名古屋の実家に預けるか…ってまてよ、うちの電気羊は誰にも教えてない。親に説明するのも面倒だしなあ。電気羊と同棲しとるってあんた何考えとるの、っていわれるのは目に見えている。やむを得ない、スマホを取り出して「OK Google、電気羊を預かってくれるところ教えて?」と頼んだら沈黙を貫きやがった。あとは人力検索はてな?あてになるかなあ。うーんどうすべきか。いっそ羊ケ丘に逃げようか…

そこで目が覚めた。真駒内で駅員に起こされた。電気羊かってなかった…

 

 引き続きはてなハイクの「電気羊飼ってなかった…」のスレで書いたやつです。1もご覧になった方は既にお気づきかと思いますがいわゆる夢オチです。つまんないことを書くとこの先も夢オチが続きます。「電気羊かってなかった…」というスレ自体がいつのまにかほぼ夢オチしばりであったはずで私もそれに乗っかっていました。名誉のために書いておくと(私は笑いを意識した小咄に仕立てましたが)幻想小説っぽく・童話っぽく・SFっぽく書いていたユーザーもいました。読んでみたい、はてなハイクって面白そう、と思った方がいらっしゃるかもしれません。が、残念ながら27日に消失してます。

こんなふうにあとがきを書くのはいくらか野暮です。しかし根がいくらか野暮なヤツなので続けます。私の手の内をさらすと、オチが決まっているのであとはどうやって膨らますかを考えていました。登場人物を天国から解決策のない悩ましい立場に追い込めてそれを夢オチでうやむやにする、という組立をし、あとは状況と心理を写生?しているつもりです。危機と喜劇は紙一重なのではないかとずっと思って試しに書いていたのですが、どうだろ。ご笑覧いただけたら幸いです。