新宿から普通電車を乗り継いで2時間くらいのところに昔は勝沼、いまは勝沼ぶどう郷という駅があります。臨時で甲府行きの特急などがとまることがありますが基本は普通電車しか止まりません。
でもってぶどう郷って名前があるくらいなので勝沼はぶどうの産地でもあると同時にワイナリーの多いところです。週末、収穫時期直前のぶどう畑の中を歩きながらワイナリー見学に行っていました。
グランポレール勝沼ワイナリーというのが勝沼の西にあります。以前は規模の大きめな醸造所だったのですけど国産ぶどうから作るプレミアムワインのみを少量生産するように戦略を変えていまにいたります。産地は勝沼に限らず、北海道の余市と長野市、安曇野の池田町、岡山から取り寄せていて「ほんとはぶどう畑のそばにワイナリーがあるのがいちばんいいのですが、大人の事情で」と説明がありました(製造現場の方が説明役を兼ねていた)。隣県の安曇野や長野は数時間で着くくらい近いのでトラックですが余市からは鉄道コンテナに生のブドウと大量のドライアイスを放り込んで運び込むそうで、途中で貨物列車がなんらかの事情で遅れたらと考えると担当の方はさそかし胃が痛くなりそうだな、と。
仕込みシーズンの前なので製造現場も見学させてもらえました。
ぶどうを選果(腐敗したものなどを取り除く)するためのコンベヤであるとか
果皮を傷つけて果汁を出やすくする破砕機であるとか
ちょっとぼけてしまったのですが、圧搾する機械であるとかをガラス越しでなく直接見学できました。圧搾の仕組みを書いておくと上のほうの開いてるところから破砕した白ワイン用ぶどうとか(白ワインは圧搾してからタンクで発酵させる)、(破砕したあとタンクでいったん発酵した)赤ワインの前の前の段階やつを放り込み、機械の中にバルーンがあってそれを膨らませることで圧搾し、液体が下にでてくるようになっています。
赤ワイン用のタンクです。上部に蓋があり、破砕したぶどうをタンク内で発酵させるのですが人力でタンク内の赤ワインの材料をひっかきまわす必要があってそいつがやはりけっこう重労働なのだそうで。良いワインを作るためには機械化できない分野があるのだな、と(コストを考えちまうかなしい性で)値段を含めて妙に腑に落ちました。問わず語りで製造過程で製品についてのさじ加減というかGOサインを出すのは官能検査について研修を受けた現場の人が行ってることも教えていただきました。あたりまえのことかもしれませんが人にしかできないこともまだあるんすね。
(余計な菌を排除する方向で)製造現場はかなり清潔に保たれてます。怒られそうなことを書くと知ってる病院の手術室を想起しました。手術室になくてタンク室にあるのがパトライトです。発酵がありますから二酸化炭素が発生し、タンクのある部屋は酸素欠乏状態になりやすく酸素が不足するとセンサーで感知しパトランプがクルクル回るようになっています。やはり問わず語りでおっしゃってたのですが、産地からどれくらいのブドウがいつ入荷するはある程度わかるものの、しかし事前の通告より多めに入荷することもあるようで、そうなると限りのあるタンクをどうやって運用するかが悩みどころなのだとか。
ワイナリーの奥にぶどうの見本畑がありいくつか種類が植えてあったんすが
右にあるのが余市のケルナーで、左というか真ん中にあるのが長野市のシャルドネです。ぶどう棚をつかわず垣根のように一列に並べてあるので垣根式ともいわれます。ぶどうはそもそも砂礫地や扇状地とか水はけのよい土地に植えられてはいるもののぶどうが生育する春から秋にかけて梅雨と台風が必ずきちまい、雨のしずくが地面に落ちてそれが跳ね返ってぶどうにカビ等がつくのを防ぐため背の高いぶどう棚をつかうことが一般的ですが、陽当たりはよくありません。欧州系のぶどうは陽当たりを好むものがあり、垣根式は陽当たりはいいので天候に恵まれさえすれば良いものができるので欧州同様に垣根式で栽培しているものもあります。
余市に植えてあるケルナーというドイツ原産の木なんすけど、植え方がわざと斜めにしてあります。北海道に梅雨はないと知りつつもはねかえりの雨のしずくがつくかもしれず不思議に思っていたら、冬になると余市はマイナス15度になりそうなるとブドウの木の細胞が死に機能しなくなるのでその対策で、幹がよりあたたかい雪の中に埋もれるようにななめにしてあるのだとか。そもそもマイナス15度という中では雪の中のほうが温かい、というのが東京の人間には想像つかないのですがデリケートな作物なのだなとあらためて思い知った次第。
ぶどう棚式で植わっていた甲斐ノワールという山梨県が開発した生食用でないワイン用のぶどうです。
とって食べていいですよ、と許可が出たので食べたのですが、野性味があるというかあとから酸味が来るちょっとくせになるでもぶどうの味がするぶどうでした(ぶどうの味がするのはあたりまえなんすが)。でもって試飲コーナーで甲斐ノアールをつかったワインが試飲できたので「あの酸っぱいブドウがどういうワインになるんだろう」と期待したのですが、想像したほど野性味があるわけでもなく酸っぱくもなくバランスの良い上品な赤に仕上がってました。サッポロの技術の優秀さに唸ったのですが、酸味が強いのが好きなので残念だったんすが。さすがに技術者の方の前では云いだせず。
90分の見学だったのですが、とても濃い内容でした。試飲したワインも甲乙つけがたいものばかりです。ただ空きっ腹に少量とはいえ6種ほど試飲すると完全にほろ酔い状態でした。えへへ。美味しいワインって怖いです(まんじゅう怖い的な意味で)。