比例代表

政治の話は苦手なのですが、ちょっとだけ。
参議院選挙が近いのですけど、比例代表ってのがあります。で、比例代表ってのについてなんすけど。


一人一票ってのはフランス革命以後の制度です。それぞれの個人が政治的に価値のある一票を同程度に持ち、選挙で政治的に等価値の個人の意思の集積を図って最終的に多数決で決める、ってことをしたのです。でもそのうち単純に個人の意思の集積による単純多数決だけでは、解決できない問題をどうやって解決するか、ってなことに直面しました。単純な多数決による意思決定が必ずしも民意を完全に反映するか・理想的な政治を行えるかっていったら違うんじゃないの、ってことになりました。たとえば一人一票の価値を持ち地域ごとの選挙区制で選挙をやったら最大公約数的民意の反映になりますが、人口の多い地域≒都市部の代表が多くなります。でもって何かの政策の実行や是正を図りたいときにに議会内で多数派を構築しないとなかなかうまくいきません。そうなると少数派の意見の反映は非常に厳しくなります。大都市でない地域の改善を図りたいときに意思決定の場にたくさんの議員を送り込むことができないと、そこの地域は非常に苦しむのです(実際、基地問題は国民の生活に直結しない雲の上のような話だって関東選出の代議士が発言したあとに沖縄の自治体の議員が沖縄では生活に直結することなので撤回しろ!と激怒したのですけどあれだけ騒いでても実際にそれくらい温度差ってあって、議会で多数を構築できない地域の問題の解決は気が遠くなるくらいの難問です)。地域の問題に限らず、職種の問題もあります。特殊技能を持ってる看護婦さんや歯科医師、電車の運転士ってのは、地域で多数派になって代表を送りうるか、っていったらまずそんなことありません。ですから、その職種の抱える諸問題を解決する必要があったりするときに意見が反映されにくい。
で、多数派が取りこぼすかもしれない、国民の中に存在するさまざまな意見や利益や主張を汲み上げずに無視していいのか、っていうとそんなことはないはずなのです。そこで少数派の意見を吸い上げるシステムとして、欧州において比例代表の理念ってのがでてきたのです。たとえばある固有の問題を積極的に取り組む集団・政党を作ってそこに投票してもらうことで意思決定の場に関与する、たとえば労働者階級の代表団を意思決定の場に送って意思決定の場に関与するってのは有益なんじゃないの、っていう考え方です。日本でも移植され日本では一人二票制に修正してで選挙区制度と比例代表制度を一緒に両立させたわけです。


比例代表が万全か、っていうとそうではありません。戦前のドイツは政党に投票する比例代表制でした。選挙は議員を選挙民が選ぶ機会なわけですがそのときに議員が支持者に向き合って意向を訊いたり逆に説得するという点が本来は重要なものの、比例代表の議員が政党に拘束されてるので議員の代わりに政党・党首が支持者に向いたのと等しいことになっちまい政党選択選挙になり、ドイツの場合は結果的に政党を率いる独裁者を躍進させることになっちまいました。比例代表制にはそういった過去があります。で、余談ですがナチス自体は当時のドイツで魅力的にみえる政策を出してたもんですから躍進したわけですがそれでもはじめて政権をとったときは他党との連立で、過半数はなかなか取れませんでした。実権を握って他党を殲滅して選択肢を奪っておいたあとにやっと安定させてます。ここがポイントで比例代表制では議会内に多数派を構築することが困難になることがあって政治が不安定になりやすかったりします。


さてここのところ選挙のたびに国民に負担を強いるのだから国会議員の定数を減らそう、なんて話がでてきます。そこでなぜか真っ先に出てくるのが比例代表部分の削減です。
今回の選挙の比例代表の候補者名簿をみれば明らかですが、スポーツ選手のほかに企業労働者、農業団体の代表、医師、僧侶などさまざまな階層の人がでています。前回参院選は同性愛者であることを公表してる候補者もいました。で、保守とか革新とかいうわけ方があって、二大政党制ってのは、なるほどなーとは思うものの、でも本来的に簡単な二極化なんかできない程度にさまざまな階層の人が居るからにはこの国の民意は複雑のはずなのです。その、複雑な民意を反映するはずの、多数派でない少数派の民意を反映する・少数派の政策決定関与の機会でもある比例代表制の議員を減らそうっていう動きは、なんだか非常におっかないっす。
なんでおっかない、って思うかというと、多数派が少数派から発言の機会を奪ったり、少数派の存在を無視したりするのが少数派の問題の出発点だと私は思ってます。で、基本的に世の中多数派の枠組みなのですが、現実的には多数派と少数派は相互に浸透しつつも、およそ多数派への同化が精神的にも政策的にも強制されやすいのです。そこに差別もおきるし、問題が発生しやすいし、なかなか解決に至らないことが多いからなんすけど。で、いまよりも少数派の政策決定の関与や発言の機会の枠を奪うってのは、決して良いことではないはずだからです。


たぶんこうあるべき、という善意から定数削減発言になってると思うものの、言ってる本人たちが自覚してるかどうかはともかくその本質は「少数派の主張はもうそんなにきかないよ」っていうことでしかないのですが。


政治の話をすると、暗くなっちまうなあ。