日記の話

子供のころは両親が必ずしもカレンダーの休みの日に家に居るとは限りませんでした。連休でも家族そろって観光地に出かけたことなんてほとんどないです。夏冬の休みも同じことで、どっちかの親に連れられて博物館や動物園って言う記憶しかないです。帰省先ってのもありませんでしたから、渋滞ってのも交通機関のラッシュってのとも無縁です。
親の名誉のために書いておくと、かわりに朝早くおきて森の中の公園へよく連れてってもらってました。それと昔住んでた町には電車庫があって、跨線橋があって、そこから朝焼け・日の出もよく見てて、その後遺症か、朝ってけっこう好きな光景です。


で、うちはうち、よそはよそ、ってのがなんとなく感覚的に判ってて家族でどこかへ行った、なんて話を聞いてもあまり羨ましいとも思わなかったり。そのかわり、日記のようなものを書く題材ってのはほとんどありませんでした。小学生のときに先生に出す日記を書かねばならなくて、書くこともないしめんどくさかったのでいつも3行でした。連休中でもいろんなことがあったであろうよその子供とちがってなにもなかったので3行で終わらせてました。
高校生になってからはこんどは交換日記をするのですが(男子校なので相手は同級生で男です)、日記の書き方を本気でわかってなかったのでそこでも3行日記に逃げました。日記というのは身の回りのこと、目に付いた事実を書くもんだ、って思ってて、やはり地味だったのでたいして書くことがなかったのです。なにかあるだろ?って思われるかもっすけど、なにを書いていいのかよくわかってませんでした。最初から書くことないしなー、っていう自覚があって持ちそうにないから絵を描いてもいい?という条件をのんでもらってて、あるとき、夏の深夜に「墓地で鬼ごっこする」なんてことを書いたのですが、これも当時は3行で終わらせてました。怖かったし面白かったんすが、それを書いてるうちにほんと馬鹿なことをしてるよな、っていう感慨もあったので書いてた長文を消して簡単に済ませて3行にしたのです。どっちかだけ書けばうそになる、思ったことを両方日記に出すわけにはいかない、というのは両方日記に書くとまとまらんし他人にはわけわからんだろうなあ、と思ってたのです。人間って不思議なもので、馬鹿だなあ、って言葉にしちまうと、何でそんなことしたんだろ、ってなことを考えちまいます。でも、やっちまったものはしょうがない。面白かったから、そういう肝試しをまたっどっかでやりたいなー、なんてことも考えてたのです。文章の中の自分と、文章を書いてる自分が一緒じゃないわけっすね(そのうえ文書を書いてる自分も統一してない)。そのあとほんとに墓地で鬼ごっこしたの?って問う日記を読んだ相手に面白かった点とか怖かった点をちゃんと逐一口頭で説明したら笑ってたんすが。
で、このとき口頭で説明した「ばかだねえ」っていう、「どう思ったか」ってのを日記にちゃんと書いてもいいんじゃね?ってことをさらっと忠告受けたんすね。どう思ったかが大事で、それを知りたいからってなことだったんすけど。そのころ日記ってものをやっと理解した気がします。


でもってそのころから、自分のこと・自分が考えたことを説明するときに「他人にとってわかりやすい」ってのはあまり考える必要はないんかな?ってなことも考えるようになったのです。実際、「他人にとってわかりやすい」ってのは、他人が評価するときに必要なことなので、自分のことを書くときには不要といえば不要です。でも「他人にとってわかりやすい言葉」で書いたほうが理解してもらえやすい。ただ、書けば書くほどなんだか違うぞー、ってな意識があって、そのあとめんどくさくなって、一時期あまり自分のことを書かなくなりました。今でもそこらへんのことをかんがえるとぐちゃぐちゃです。深入りしなくてさらっと書いてます。ただ確信めいてることがあって「他人にとってわかりやすい自分」ってのはどこか嘘を含むんじゃないか、っていう気がしてます。
昔好きだった相手(といまのパートナー)に対して全くわだかまりのようなものがないのかといったらそんなことはなくて(でも相手の傷つくようなことはしたくない)、アプローチを断ちたいほどかっていったらそんなこともなく、電話が来ればいまでも嬉しいし、ってな具合なんすが、このわけわかんなさを語れば語るほど何かが零れ落ちちまう気がしてならず簡単にすればするほど嘘を含んじまいそうで、他人にわかってもらえる言葉ってのをどうやって探し出せばいいのかよくわかってなかったりします。さらにセクシュアリティの話なんか鬼門で、本気でどうやって説明していいのか、わかってないです。


自分のことを書くときに他人がどう読むかってことをわりと意識しつつも、他人の視線にとらわれなくてもいいんじゃね?ってことも考えて揺れ動いたりします。
ほんと文章を書くことはいまでも得意ではありません。身の上におきたことをブログを書いててさらに読んでる人がいるってのがなにかの冗談のような気がしてます。