正しさの先にあるもの(一部加筆)

いってることがめんどくさいので、めんどくさいことがお嫌いな方は飛ばしてください。

以前はグレーゾーン金利というのがありました。今でもありますけど、そろそろなくなります。利息制限法では、借入額が10万円未満だと年20%まで利息がとれます。で、もうひとつの利息を制限する法律に出資法があって出資法では、上限利率を年29,2%としています。利息制限法の利率を超え、出資法の利率までの間の金利グレーゾーン金利といってました。クロなんだけど、見方によってはシロだからでしょう。貸金業者が金を貸す場合、このグレーゾーン金利で貸していました。 貸金業者は利息制限法を超えてなんで貸し付けているかというと、利息制限法には罰則がないからです。出資法の上限利率を超えた場合は罰則がありますので、貸金業者は利息制限法と、出資法で罰せられない金利ギリギリの範囲での利息で貸付をしてました。立場が弱い、お金を借りたほうは利息制限法を越えてても契約時の取り決めどうりに弁済する人が多いです。ただ法は貸主が利息制限法を超える利息をいつでも取得してもええよー、と定めているわけではありません。(来月なくなりますが)みなし弁済という制度があって「返済を受ける度に法律で定められた事項の記載のある領収書を交付していること」とか「弁済が任意であること」とかいくつか要件を規定していてそれを合致してたとき、はじめて認められる制度です。ただ借りるときの契約文書に、遅延利息の付加や残金一括返済の請求を可能とする「期限の利益喪失特約」(予定日に弁済が遅れると一括返済の請求できるというもの等)があってその一括請求を恐れて期日どうりに高い利息を支払っている場合がほとんどで、裁判所はそういう特約がある限り「強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払をした場合には、制限超過分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできない」としてみなし弁済の適用要件を欠く(最判H18・1・13・民集60巻1号1頁)としてて、実際には任意性などの点でその要件を満たしてる場合ってのはあまりありません。で、すでに出資法に近い金利で払っている場合、判例でもってその高い利息で任意に支払った部分は「債務者が利息に充当することを指定して支払ったとしても、元本に充当されるものとなる」(最大判S39・11・18・民集18巻9号1868頁)利息を元本に充当した結果、元本が完済となったとき、その後に債務の存在を知らずに支払った金額は、返還を請求できる(最大判S43・11・13・民集22巻12号2526頁)ってな取り扱いがあります。事実上任意じゃない形で利息制限法の利率を超えた利息で借入れし弁済している・していた場合は、利息が出資法の上限の範囲内(29%だとか)で計算されてたとしても利息制限法の上限以上(10万未満なら20%より上)の利息で計算された部分については契約時の取り決めに縛られずに無効の主張が可能です。利息制限法を超えて利息を貸主に支払った部分は俗に言う【過払い金】として返還請求が可能です。ここ数年で判例が完全に確立したせいもあって、実はいままでサラ金に借金をしていた人のうち時効に引っかからない何割もの人がこの【過払い金】の返還請求を行ってます。それを専門に行うが法律事務所が東京ではCMを流してます。CMを流せるくらい、みんな利用してます。


【過払い金】の問題はサラ金からするとシロだったはずのものが後からクロでした、って言われる後出しじゃんけんでの負けのようなもので、契約の終了後から資金が流出してゆくわけで理不尽に違いないです。で、過払いの請求先であるサラ金っていま苦境に陥ってます。大きなところだとクレディアっていうサラ金がつぶれ、チワワのCMが有名だったアイフルは9月に事業再構築のための私的整理を申請して取引銀行に対して債務の返済猶予を求めました。【過払い金】の請求が殺到してじわじわと本業の体力が無くなっちまったからです。今月に入ってからはこんどは武富士が過去に発行した転換社債(株式にも交換できる社債)で集めた資金の返済に不安があるので投資家に対して条件変更の交渉に入ってます。やはり【過払い金】請求がじわじわと影響してます。気のせいかもっすけど、街中で配るティッシュって、減った気がしてます。
私は別にサラ金に債務もないし、株主でもないので、対岸の火事なのですが、実はけっこうこの先大変なことになるのではないか、って思ってます。サラ金ってのは、なんのことはない、銀行や信用金庫が融資しない返済が確実かどうか必ずしもはっきりしない層を相手に融資してます。グレーゾーン金利というシロともクロともつかぬものが長いこと黙認され存在してたのは、いつ返済が滞るか判らないのでそのリスクヘッジのために金利が高くてもいい、ってなふうになんとなくみんな(財務省も借り手も貸し手も政治家も法律家も)判断していたフシがあります。実際、サラ金は銀行より金利は高めですが担保がなくても銀行に比べて比較的簡単に融資します。それをいままでしたのは、グレーゾーンの高利で貸してその利益・儲けを返済してもらえなかったとき・貸し倒れになったとき引き当てに当てたりできてたからです。武富士アイフルの苦境ってのはいままでのサラ金のビジネススタイルでは立ち行かなくなりつつあるってことで、サラ金自体が儲けることが満足にできない体質になって債務を銀行や投資家に返済しなければならない立場になってることはどういうことを招くか。たぶん、困ったときにサラ金でしかお金を借りることができなかった層が、いまよりお金を借りれなくなることを意味します。困ってる人以外はあまり関係ない話ですが、いつなんどき、困るほうにいくか判らないので、どこかこわいよなーと思ってます。


賃貸住宅の場合、「更新料」ってのがあります。契約更新時に一定の額を貸主に借主が納める慣習です。無い地域もあるのですが、東京ではわりとポピュラーな存在でうちの近所だと一月分くらいです。でも根拠があるかって云ったら慣習というだけで、法的なものではありません。根拠はあいまいでシロクロはっきりしないけど、商習慣として最初の契約時に契約更新時に更新料の支払いを義務付けた特約をつけることって東京や京都ではよくあります。で、その特約は消費者契約法に違反するから無効なんじゃね?として入居者が貸主側訴えた訴訟が関西で複数あってまず負けるだろうなーと思ってたのですがなぜか夏から入居者が勝つ判決が数件出てまして(消費者契約法によらずに民法の信義誠実義務違反なので更新料は消費者の利益を一方的に害してる、ってのもあるのですべて一緒くたにするのは乱暴なんですが)不動産関係者を震え上がらせたました。別件で秋になってからは入居者側が負けたものも一件あります。最高裁で争うらしいので、このさきどうなるかはわかりません。で、借りてる人からすれば、この判例が定着したら「更新料」という商習慣が無くなる可能性が高くなりますしお金が減らずに済みますから悪いことではありません。慣習だからってんで不当にとられてたものが無くなるわけですからいいことのように思えます。でもいま貸してる人からすると困った問題です。更新料を原資に修繕を計画してることがわりと多いからです。そうなってくると、たぶんどこかに転嫁せざるを得ないでしょうから予め家賃に上乗せするようになるはずで、これから借りようとする人の家賃はじわじわと上がってくるはずです。現在借りてる人とて同じことです。強気な貸主なら、更新料がもらえないなら、契約更新時に家賃を上げようとするでしょう。
スジとして更新料がなくなるのが正しいに違いないんすけど、正しさを追求するとどんどんハードルが高くて文字どうり住みにくい世界へ入ってくんじゃないか、って思えるんすけども。


サラ金がシロともクロともつかぬあいまいな部分があって罰則がないことをいいことに高利で金を貸す、もしくは更新料という法的根拠の乏しいものでもって金を巻き上げる、ってのは、正しいかっていったらたぶん正しくはありません。ですから、その方向へ道を拓いた法律家にはほんとに敬意を表します。
たぶん正しいものを信じてその方向に社会が行く、ってのは喜ばしいことなのかもしれないです。でも、うっすら見え隠れするシロクロはっきりするその先は、なんだかあまり住みにくそうな場所でない、ってのが、いくらかしんどかったり。