平等と少数派

国会議員の選挙で各選挙区の議員定数の配分に不均衡があり人口数との比率において選挙権を持つほうの一票の重みに不平等が存在しててその不平等が最大4.86倍(鳥取県>神奈川県)もある07年の参議院の選挙は違憲じゃないの?という訴訟の判決が先月末にありました。ちなみに鳥取県有権者数が48万強で議席が2(半数改選なので一回の選挙で当選は一人)で神奈川県が725万で議席が6(半数改選なので一回の選挙で当選は三人)です。理屈の上ではたしかに一票の重みが一対二以上に広がると(一人に二票与えたのと同じになるので)投票価値の平等・法の下の平等がは守られません。この問題、昔からずーっと問われてる問題でして判例がいくつも出てて、一応「著しい不平等があり」で「その状態が相当期間続いていること」が「違憲」とする条件とされてて、今回は前に比べて格差が縮小し(以前は最大6,59倍あった)選挙制度の仕組みを変更するのには時間がかかることも踏まえて「違憲ではない」との結論を出したものの、「投票価値の観点からは大きな不平等」と明言して「現行制度の仕組みを維持する限り、選挙区の定数を振り替える措置だけでは格差の大幅な縮小を図ることは困難で、行うとすれば選挙制度自体の仕組みの見直しが必要」と述べてます。


一票は平等であるべき、というのは重要なことなので国会はなんとかしようとここ30年くらいは「選挙区の定数を振り替える措置」をしてました。人口の減った県や道の議席を減らして人口の増えた別の都道府県に増やすことをしてました。実は問題になった神奈川は最近議席をひとつ増やしたばかりで、代わりに栃木を減らしたはずです。定数2で一回の選挙で一人しか出せない鳥取を島根あたりと一緒にしようか、なんて話も案としてはありましたが流れてます。もしそうしたら、有権者の多いほうの県の意見が優先されかねません。で、こういう施策を続けると人口の多い地域ほど議席が増え、つまり都市部ほど議席が増えることになります。そうなればそうなるほど地方の代表の議席は減り、地方の抱える事情の反映が厳しくなる気がしてならないのです。それがどこが悪いの?といわれるとぐうの音もでないです。でも、平等も大事だしその実現も大事なんすけど、その平等を貫徹した結果、多数を構成する都市部にとって都合が良いけど、少数となったそれ以外の地域の意見の反映が鈍くなるのが妥当なんだろか、なんてことをあほう学部時代からずっと考えてました。ですから「選挙区の定数を振り替える措置だけでなんとかしよう」ってことに関して最高裁が釘を刺したことがちょっと嬉しかったりします。
かといって妙案なんかはないんすが。


地方の抱える事情の反映が難しいのではないかっていうのを考えたきっかけは以前にアイヌ関係の法律について知ったからです。
実はあまり知られてないのですが平成9年まで明治時代に制定された(アイヌの人だけに効力を有する)北海道旧土人保護法というのが生きてました。北海道が設置されてからはアイヌの人たちが出入りしていた所有者がはっきりしない土地(北海道に住んでたアイヌの人たちは土地所有の概念があまりなかった)はいったん国有財産とされアイヌの人たちにも無償で払い下げられたんすけどこの保護法によってなぜかその土地を他人に譲渡する際には別に道知事の許可が必要でした。明治時代のその立法趣旨は不明ですがたぶんアイヌの人たちは(土地所有概念がなかった時期が長いので)財産管理能力がないのでは、という判断に基づいたものだったと思われますけど新憲法下でも残り続け、この事実上の差別的条文を無くすまでえらい時間がかかりました。積極的に動く政治家があまりいなかったからです。そもそも北海道固有の事情というかそもそも47分の1のエリアの話ですし、さらに当事者としてのアイヌ民族は道内に23782人(2006年北海道調査)ほどなので道内でも少数派だからでしょう。アイヌ民族の国会議員は参議院比例区で当選した議員が平成になってやっと一人登場し、旧土人保護法の廃止もその当事者としてのアイヌ民族の議員が当選して政府に積極的に働きかけ、その任期中に実現してて、廃止のニュースを知ったとき「やっとなくなったのか」ってのと、その議員が居なかったらどうなってたかなー、と思ったんすが。
ちなみにいまはアイヌ民族の議員はいません。実は前回の参院選で北海道選挙区で次点で負けちまった女性がアイヌ民族の人でした。個人的心情からいえばアイヌ民族に民族枠として北海道に一議席って思いたくなるのですがそれはたぶん平等ではありません。


国会議員というのは全国民の代表であるべきであって多数派や特定の地域・団体の代表であるべきではありません。でも悲しいかな、この国の体質として全体最適より「多数派の多数派による多数派のための部分最適」に走りやすいんじゃないか、なんて学生時代から疑ってます。その結果、多数派でないほうが抱える問題の解決ってのは遅れやすいのではないか、って思ってます。
少数派の主張というのを通すとき非常に苦労します。日本国民であれば憲法に請願権というのがあって主張の実現を国家に対して明文上は要求できます。が、実効性はあるかっていったら、たぶんそれほどではないはずです。
一票の平等に留意しながら選挙を通じての人口の少ない地方や少数派の意見を反映させるためのシステムってどういうものがベストなのか政治学を正直、知らないのでよくわからずにいます。その疑問を久しぶりに最高裁の判決のニュースを見てたら思い出しました。どうしたらいいんすかね。