諏訪の事例

生殖医療の専門家ではないからどうしようかとおもったのですが、エントリを起してみます。


50歳代の女性、娘夫婦の受精卵で「孫」を代理出産・院長会見

 諏訪マタニティークリニック(長野県下諏訪町)のN院長は15日、東京都内で記者会見し、50歳代後半の母親が昨年春、出産できない30歳代の娘に代わって娘夫婦の受精卵を使って代理出産したことを明らかにした。公表された国内での代理出産で祖母が孫を産んだ例は初めて。代理出産は学会が指針で禁じているが、N院長はこれとは別に実妹と夫の義姉が産んだ2例も新たに公表した。

 代理出産を依頼したのはともに30歳代の娘夫婦。結婚後、娘は子宮がんのため子宮の摘出手術を受けていた。娘夫婦の卵子精子体外受精させ、その受精卵を娘の実母の子宮に移植、2005年春に出産した。生まれた子供は実母の子供として届けられた後、娘夫婦と養子縁組した。
(10月15日付けNIKKEI NETより転載)

解説すると、夫と妻が体外受精を行い、妻の母親が子宮を提供して出産した事例です。えげつない表現で恐縮ですが、いわゆる「借り腹」ですね。産まれた子供は妻の母親(子宮の母)の子供として出生届けが出され、そのごに妻夫婦(卵子の母の夫婦)の養子になってます(もう少しわかりやすく説明すると、タラちゃんを産むに当たり、ますおさんとさざえさん夫婦が精子卵子体外受精させてフネさんの子宮の中にいれて出産した、といえばわかっていただけるでしょうか)。
養子縁組することで嫡出子たる身分を取得し、普通の子とほぼ変わらない法的状況に置かれます。ただし離縁するまでは、という留保は付きますが。
したがって、産まれてきた子供は妻と兄弟姉妹関係になりますし、同時に年下の弟か妹を子供として育ている状況になります。
向井さんの事例と違うのは、この方たちは自分たちの遺伝子を持つ子を自分たちの子として出生届をだすことを諦めて養子という手段を使って実利をとったことになります。
ひょっとして、娘夫婦の母が代理母になったことについて、抵抗を感じた方もいるとおもいます。私も同意見です。ただ、ここらへんは感覚の問題かとおもいます。例えば日本だといとこ同士の結婚は別に普通ですが中国だと奇異の目で見られるのと同じです。


なお、付記すると、未成年の養子というのは家庭裁判所の許可か必要なんですがその基準は子供の福祉を害しないかどうかといった単純なものになります。たぶん普通養子というカタチをとったとおもいますが、そうなると実親(ここでは子宮の母)との親子関係も実は存続してます。離縁も可能なのですが、その場合遺伝学上どうみても子と卵子の母は親子なのに親子関係が終了するという不思議なことになります(不都合はないのですが)。
また、日本国内でこれが法に触れるかというと、触れないはずです。強いて言えば代理母を原則禁止している産婦人科学会から病院に圧力がかかるくらいですが、既にこの諏訪の病院は除名されてまして(2001年に姉妹が借り腹を名乗り出て実施)、いまさらであったりします。



癌などの病気により子宮に支障がある場合こういった方法をとらざるをえないと判ってはいますが、代理母の場合はメリットは依頼者にデメリットは依頼された側に発生してしまいがちでこれこそが一番の厄介です。
また、考えなければならないは、生命の人為的操作が許されるかどうかなのです(つきつめれば人間の意志によって生命を左右してるわけです)。日本独特の血筋に執着したがるというのはなんとなくわかりますし普通ならば子供を産めないカップルが、先端医療の力を借りて新しい生命を授かるということは確かに当事者にとって喜ばしいことなのかもしれませんが、それがほんとに良いことなのかどうかという点です。私は明確な答を持っていませんけども。また、生殖医療を否定しようという気持ちにはなりません。ただ、正直にいって代理母(借り腹)という事態に抵抗はあります。
子孫を残すことだけが、女性の存在価値じゃないと私はおもいます。代理母や、これらの問題を論ずるときに気をつけなければいけないのはそこの問題で、すべての女性が子供を産む産まないの選択を主体的にできるようになることは理想的であるとおもうのですが、実は産めない体でもそれはまったくおかしなことではない、というふうになるべきなのではないかと正直おもうのです。この点実はこの件や向井さんの件が美談になってるのがなんとなくおっかないとおもっているのですが、私がどんなに頑張っても子供を産めない男であるからほんとは何もいえる資格はないのかもしれません。