これを書いているのは自称あほう学部卒ですがいちおう法学部卒で、行政というのは法律の根拠がないものはできない、というのを学んでいます。米国の法律に詳しくはないし野球と政治の話はよしたほうが良いかもと思いつつも、報道を眺めていて気になる点をちょっとだけ。
大統領というのは行政の長で、繰り返しますが行政というのは根拠となる法律の条文がない事項に関しては行うことができません。ので、大統領の出す命令というのは根拠条文を示して出す行政命令(exective order)か法律の授権の範囲内ではあるものの詳細な根拠条文を示さずに出せる大統領覚書(presidental memorandum)のどちらかであろうと推測します。
たとえばトランプ大統領が8年前にメキシコとの国境に壁を作ろうとした大統領令は根拠条文がある行政命令のほうでした(根拠条文として1100キロほどの国境のフェンス設置を定めたフェンス建設法をもちだして無理筋にちかいのですがそれを3000キロにしようとした)。そののちTPPとの撤退を決めますがこちらは大統領覚書で、こちらは合衆国憲法と制定法の定めるところ、という理由です(おそらく憲法が大統領に与える外交の権限の範囲内であるから、という理屈だと思われます)。
アメリカはふたたびトランプ大統領の治世になっています。就任直後にいくつかの大統領令に署名した、という報道があり、そのなかに性別は男女に限る、というのがありました。これが果たして詳細な根拠条文のある行政命令なのかそれとも大統領覚書なのか、日本に入ってくる報道ではほとんどわかりません。
でもって、この大統領令による政策変更が厄介なのは、連邦法の1964年公民権法の中にある差別禁止規定の性別にはトランスジェンダーを含むという連邦最高裁の判決が2020年に出ていてこれは企業のみならず連邦政府も拘束し、なので、性別は男女に限るという大統領令と齟齬をきたすはずです。この大統領令に関して訴訟が起きてもおかしくはないのですが、どうなるのかなあ、と。
くわえて、メキシコやカナダからの輸入品への25%の、中国には60%の関税を課す大統領令に署名する、と事前に宣言ししていて、それらについての大統領令はいかなる根拠に基づく行政命令なのか、それとも、大統領覚書でやっちまうのか、いまいちわかりません。ただ合衆国憲法1条には関税を含む租税徴収権限は議会にあるとしていますから、そこらへんどう整合性をつけるのか、それとも撤回するのか、大紛糾するのか、海の向こうのこととはいえ若干気にはなるのですが。
私が居た大学の法学部には政治に関しての授業があって、必修ではなかったものの最初は単位欲しさに出ていて、授業ではないときにアメリカには「丘の上の町」という考え方があり、丘の上にある町は丘の下にある町より絶えず視線を浴びるのとおなじように、アメリカの社会は模範たるべき行動をとらねばならないっていう(ある意味鼻持ちならないいやらしい)考え方があることを知りました。けっこう記憶に残っていたのですが、ここのところ米国からの報道を眺めていると「丘の上の町」はいまはもう消えちまったのかな感が強いです。幻想だった可能性もあるのですがその欠片もないのを目にすると若干寂しかったり。
やはり政治に詳しくなく、不勉強が露わになりそうなのでこのへんで。