ステーキソースの記憶

東京ローカルな話をします。

駿河台から中央線の線路沿いに坂を下ると須田町で、神田川を挟んで須田町の対岸が外神田で、須田町と外神田を結ぶ神田川にかかる橋を万世橋といい、その万世橋の南詰にあるのが肉の万世という肉を得意とする洋食屋です。須田町に以前は交通博物館があって小学生の頃に駿河台の病院のあとになんどか連れて行って貰ったことがあるのですがだいたいなにかを食べるのは蕎麦屋万惣という果物店で、なので万世は長いこと名前だけを知る店でした。

話はいつものように横に素っ飛びます。

同性二人で入れるラブホテルというのは東京ではそれほど多くはなくしかし湯島にはあって、その目的で湯島へ行ったことが無いわけではありません。運動をいたしたあとに腹が減りつまりお腹が鳴りふふふと笑われたあとに「なにか食おう」ということになり給料日のあとだったのか「今日は俺が出すからついてきて」といわれ、地下鉄で一駅以上ある須田町のあたりまで歩き、そこで万世に入ってメニューの値段を見ていくらかびびったもののハンバーグを食べました。万世童貞卒業(…万世童貞?)はハンバーグで、確かステーキソースがかかってた記憶があります。

私は微分積分代数幾何他数学系はすべてやったけど技術家庭の無い学校を出ていて、料理は詳しくありません。ハンバーグというのは無数のレシピがあると思うのですがその頃はトマト系でタネを煮込むものしか作り方を知らず「同じものを作れって云われるのかなあ…プロと同じはできないよなあ…」と身構えたものの、さすがにそれは云われていません。でも煮込まない焼くハンバーグにステーキソースはありなのかと悟り、ステーキソースは市販のものもありましたから真似ています。

話を元に戻します。

先日万世橋南詰の肉の万世が営業終了する旨の報道が出ていました。新お茶の水駅などにも店があってそこでは営業は続ける模様で、学習はしたもののそのあと片手で数える程度しか万世にはお世話になっていませんからそれらについてなにかをいう資格はありません。ただ、それほどお金のない世代が背伸びしてなんとかなる程度の値段で美味しい料理を出した店が立ち行かなくなる、というのは、可処分所得が相当減少傾向にあるのではないか?とかいくつか推測はつくものの、理屈とは関係ないところで「この社会、なにか間違ってるんじゃないの?」感がないわけではなかったり。

社会人になってそれほど経たない頃、自分より年次がすこし上の人がふとした拍子に「あそこには××があって」といまはもうない建物や目印や店のことをいうことがあり、それを聞いて「実際にそこにないものをどうしてこの人は教えようとするのだろう」と不思議に思ってた時期がありました。おそらくそれはその場所にリンクした記憶がその人の脳内で溢れだしているのではないか、といまとなっては想像します。万世の報道を聞いただけでおよそ30年前弱の記憶が溢れだしたのですけど、もし須田町や外神田へ行く機会があったら、もっと記憶が溢れだしそうな気が。