欽ちゃんのアドリブで笑ぶっつけ本番90分スペシャル

NHKBSで今年の1月にコント55号を特集した番組がありそのなかで欽ちゃん=萩本欽一さんは、台本があってそれをきっちり稽古して、というのはそれはショート芝居で「コントではない」と証言していました。台本どうりに「次に何やるか」ということと笑わすことを同時にはできない、という理由です。欽ちゃんは台本なしで第一線を駆け抜けてきました。5月に欽ちゃんが育った浅草の軽演劇そのままに「リハーサルなし台本なし」で欽ちゃんが身につけたコントのノウハウを劇団ひとり、前野朋也、若村麻由美といった俳優陣に叩き込むワークショップ形式の番組を4本制作しています。今回、河本準一、沢部佑といった人を迎えその続編があったので録画して視聴しました。
今回の番組で欽ちゃんは「台本に書いてあることを考えるから動きが小さくなる」旨、指摘しています。台本に沿って「次に何やるか」ということと笑わすことを同時にはできないということと一緒に考えるとなるほどなあ、と思わせるのですが、(番組内では触れられていませんが)欽ちゃん「リハーサルなし台本なし」のスタイルのコントはいまは主流ではありません。模範解答もヒントもいまのところ欽ちゃんの身体の中にしかありません。この欽ちゃんの番組の難点は、欽ちゃんがすべて模範解答を握り欽ちゃん以外まっさらで、欽ちゃんが要求するものに対して出演者が反応することで、反応した出演者を通じて出演者と視聴者が欽ちゃんの云わんとしてることを理解するような複雑な構造をしています(実はそのことを5月の番組の3本目にして理解できた)。でている出演者からすると演技をしながら正解あてゲームをする両にらをせねばならずけっこうハードなはずで、今回は出演者側の控え室にカメラがあったのですが、しょっぱなから疲労感があることを述べていました。
欽ちゃんが前回も今回も繰り返し述べてるのは「芝居を一生懸命やることで笑いになる」ことです。細かい演技指導も惜しみなく伝えています。たとえば重い桶を持つ演技なのですが、重そうに桶を持つ表現をした若村さんに対し歩くスピードを上げるよう指導します。それによって精一杯感がでてくるので芝居が深くなります。「疲れたら音を出せ」とも指導します。たしかに重いものを持つときに私も「ほっ」とか「よっ」声を出します。しかし欽ちゃんは「県」の名前を入れることをすすめます。欽ちゃんが福井で軽くやって見せ、桶を持ち「ふっっ」運びながら「くぅい」置きながら「けん」という具合に若村さんは芝居しながら消化したのですが、芝居が本気な分だけなんともいえぬおかしみがでてくるのです。もうひとつ述べるとするなら要所要所で欽ちゃんは身体を動かすことを要求します。ラーメン屋が出前のラーメンを持ってくるで「ラーメン鉢が熱かったら手をのけるのがはやいはず」という趣旨のアドバイスをします。たしかに「あちっ」ってなるとき素早く熱いものから手をひっこめようとします。その指導のあと水を得た魚のように生き生きとしていたのが河本準一さんです。身体を動かすことで情報量が増え、深みが増すことを改めて思い知らされ、演技も表情も真剣そのものなのですが、ラーメン鉢に悪戦苦闘してる姿にやはりおかしみがありました。欽ちゃんの目指す高みがより理解できた気がします。
番組の最後に欽ちゃんは「この仕事はね、永久に百点が無いからね」という趣旨のことをのべています。到達点がないというのは欽ちゃんは追っては逃げる蜃気楼のようなゴールを目指して走ってるようなものなのかもしれません。「未来に大きなものが待ってる」と述べているのが救いなのですが、欽ちゃんのしんどさをちょっと垣間見た気がしました。個人的には90分間堪能し、できれば続編を期待したいところなのですが、出演者に全力で指導して疲労している後期高齢者になってしまった欽ちゃんをみると酷なのかなあ、と思っちまったり。