早すぎた天才の死去(一部加筆)

2年くらい前に欽ちゃん(萩本欽一さん)のコントの番組を続けて視聴していた時期があります。劇団ひとりなどの若手に欽ちゃんが身に着けた浅草の軽演劇のエッセンスを伝授する番組でなにより興味深かったのは「なにがいけないってみんなセリフで云うの」「ほとんどセリフでまとめようとするのね。これを動きにするようにするとたいしたもんだ」と忠告していたことです。欽ちゃんの全盛期は身体を動かすことで間や笑いを得ていたのですが(たとえば真正面を見ない横を見て走る独特の欽ちゃん走りはそれだけで間がうまれておかしみがあるのですけど)、いつのまにか言葉で笑わす笑いが主流になるよう変化していたわけで。我々は言葉を得た代わりに身体性を失ったのではないかとか哲学的なことを云いたくなるのですが、専門ではないので横に置いておくとして。

ここから先、ちょっと記憶があいまいなので正確ではないかもしれぬことを書きます。おそらく15年以上前になると思うのですが、(いまとなっては録画しなかったことが悔やまれるのですけど)勘九郎時代の勘三郎丈の番組で志村けんさんをゲストとして呼んだ回があって、勘九郎丈と志村けんさん2人とも女方の衣装を着て記憶に間違えなければ助六の揚巻と妹分の白玉になり(志村さんはきちんと演技をして)助六の一場面を再現してて、しかし番組内で「アイーン(_´Д`)(´Д`_)アイーン」をさせたはずなのですけどその姿になんともいえないおかしみがあって、「アイーン(_´Д`)(´Д`_)アイーン」というあのポーズの破壊力を思い知らされたことがあります。あの動き・あのポーズだけで、空気をかえておかしみを引き起こし笑わせるわけですから、それを作り出した志村けんという人の凄みをその時思い知りました。

また東京スカイパラダイスオーケストラとの三味線での共演のCMのメイキング映像を視聴したことがあります。いわゆるバカ殿様の格好でおっかなびっくりで楽器に触れるのですが、歩き方を含めて言葉を発せずともその仕草がとてもおかしみがあり(同時にしっかりした芝居の素養があっての演技なのだなといまとなっては理解できるのですけど)、円熟期を迎えた志村けんの凄みを垣間見た気がしました。

志村さんは欽ちゃん同様に、言葉ではなく身体の動きで笑いが取れる才能の持ち主です。残念ながら私は最近の活躍をあまり知りません。ですからヘタなことは言えません。でも、どってことなさそうな動きで・身体の動きで笑わせることができる天才が感染症で消えてしまったことが、日本の笑芸にとってとても損失であるような気がしてなりません。残念であったりします。