欽ちゃんのアドリブで笑「欽ちゃんナイト第一夜」

NHKは去年から欽ちゃん=萩本欽一さんを起用してBSでコント番組をワークショップ形式で数本作っています。ただし厄介なのは欽ちゃんの持っているコントのノウハウは浅草の軽演劇を通して得られたもので「軽演劇」について6月2日の放送では
「言葉ではなく動きで楽しませること」
と定義し残念ながらいまではそれほどメジャではなく、なおかつ去年6月9日の放送ではコントについて
「いまテレビでやってるものはみんなオチがあるんですよ、我々ね、オチがあるコントをやらないんですよ、いきつくところがお客さんが笑ったところがオチという」
と語ってたのですがコントと名がついていてもいくらか特殊なものです。特殊ゆえに百戦錬磨の名の売れてる劇団ひとりという芸人さんであっても回を重ねても苦戦しています。NHKBSの欽ちゃんの一連のコント番組の難点は欽ちゃんが要求するものに対して劇団ひとり氏を筆頭に出演者が反応することで、反応した出演者を通じて視聴者が欽ちゃんの云わんとしてることを理解するような複雑な構造をしています。コントと云えばコントですがどちらかというとコントではなくドキュメンタリーに近いかもしれませんって、長々とした前置きはともかく。恥ずかしながら今年7月にBSで(六角精児さん、田中美佐子さんなどをゲストに招いた)新しいワークショップを放送していたのを知らず、Twitterをはじめた欽ちゃんが55万いいね!と達成した記念として地上波20日深夜24時からという時間帯で放送された「欽ちゃんナイト第一夜」で再放送していたものを録画して視聴しました。
冒頭、欽ちゃんは「コントはやったことがない人のほうができる」と主張します。アシスタントの任務を与えられた劇団ひとり氏がゲストを呼ぶときに平易に呼んだのですがそれにダメ出しをし、「美人」であるとかなにかしらの形容をつけて呼ぶように修正すると、女優の田中美佐子さんはアドリブで舞台設備を利用しながら・いくらか大げさにポーズをとりながら・袖から美人女優っぽく振る舞いながら出てくることによって「うまい」という笑いを得ていました。過去の放送でも繰り返し欽ちゃんは「言葉で笑いを得るのではなく演じることが重要」という趣旨のことを述べてるのですが、まさしくそれです。バス停をつかった即興コントでも六角精児さんが「焼き鳥をあてにお酒を呑んで帰宅途中のほろ酔いサラリーマン」と「手羽先をあてにお酒を呑んで帰宅途中のほろ酔いサラリーマン」を見事に演じわけ、「うまい」という笑いを得ていました。「言葉ではなく動きで楽しませること」で笑いを得ることが芸人でなくてもできることを見事に証明してて、ちょっと唸っちまったんすけども(演劇と笑芸というのは紙一重の差ではないのかな、と思わされたと同時に「うまい!」という演技は人を惹きつけるものなのだな、というのあらためて確認させられた)。
後半は欽ちゃんが有働さん時代の「あさイチ」出演時に募集した「お茶の間の動きのエピソード」を元ネタにコントを即興で作るコーナーで、ピンポンと鳴って玄関に出ようとするとあちこちに体をぶつけて骨折した人のエピソードを元に田中美佐子さんと劇団ひとり氏がコントをそれぞれ即興で行って個人的に笑いが止まらなかったのですけど、急いででなければという必死さというか緊張感のある迫真の演技であればあるほど(ぶつけるというその行為で)それを崩せばほぼ言葉なしでけっこう笑いになるのだ、ということが理解できました。セットを片付ける黒子さんにも単純に片づけるのではなく転ぶことを要求したのですけど、黒子という表情がない存在でもやはりそれがとても笑えてくるのです。ちゃんとした行為があってそれを崩すことでことばに頼らずとも笑いになる、ということがとても興味深かったです。
もうひとつ書かねばならぬことがあります。欽ちゃんの指示は(劇団ひとり氏が謝意を述べつつ「くたばれくそジジィ!」と絶叫するほどの)一見いわゆるムチャ振りなのですが、教えることによって教えられた側が進化する点で冗談抜きで教育番組を視聴しているようにも思えました。(なんの教材だかわからないけど)教材としても深夜に放送したにはかなりもったいない60分でした。
出来ることならば欽ちゃん自身の大学生活に支障にならない程度に新作を期待したいところです。