小澤さんの「こうもり」のリハ

小澤征爾さんが京都のロームシアターでやったオペラ「こうもり」のリハーサルをNHK京都局が番組にしていて、録画していたのを帰宅してから夜中に視聴しました。オケはオペラを経験したことがない若手の臨時のオケです。
とても濃い番組でした。
で終わらせるわけにはいかないのでちゃんと書きます。「こうもり」の序曲はあちこちで演奏される機会の多い曲ですが、最初の三音を小澤さんは「それで一つの言葉」と指示します。もちろんそんなことは譜面には書いてありません。作曲家が書ききれないものをどうやって表現するか、芝居の行間を読むのと同じ、ということを小澤さんは解説のようなコーナーで述べます。おそらくここらへん指揮者の役割のキモの部分で、そんなことは一切番組では触れていませんが、なんとなくわかるようになっています。
いくつか重要なキーワードをリハーサルの時に述べています。 たとえば「listen」です。聴く、という意味ですが、オペラの場合歌手にあわせなければなりませんから、いろんな音の中から何が大事か考えて聴くことの重要性、また場合によっては聴くために弱く弾くことを求めます。実際、それらの指示のあと、カイゼンの兆しが聴こえてくるので唸ってしまうのですが。
なかなか大変だなあ、と思ったのがウインナワルツの指導です(こうもりはウイーンが舞台)。正直なところかなり難しいらしく、ウイーンの国立歌劇場にいた弦楽奏者を呼んで説明、指導してもらうのですが、それでもなかなか理解しにくいというか言葉では伝わりにくいというか、三拍子のうちの「3拍子目を少し戻す」という説明をしたもののやはり不十分で、若手ではないコーチ級のプロ奏者ですら「(出だしは)スタカートではないのか?」といった確認をしつつリハーサルを進めていたのですが、小澤さん自身が「ほんとのところはウィーンの人ではないとわからないらしいですよ」と述べてるのが印象的でした。それを隠すことなくきちんと流してるのもスゲーな、と思ったのですが。
番組内で「滅多にできない」といことばがあったのですが、おそらくオーケストラピットに入った若手だけでなく、視てるこちらも音楽を創造する現場に立ち会えるという「滅多にできない」得難い経験をしたような。
できることならこういうドキュメントをNHKにはもうちょっと残しておいてほしかったり。