壊したあと

郵便局に預けた貯金や簡易保険は長い間「財政投融資資金」としていまの財務省経由で政策的な公的融資を実施する金融機関(たとえば住宅金融公庫とか)や道路公団をはじめとする各種特殊法人に貸し付けられていました。国や民間が共同で出資してる関西空港なんてのも財政投融資の対象です。で、関空の一部は郵貯のからの貸付金のなれの果てからでできてて、離発着料金等から返済してます。でも関空発着便をどこの航空会社も削減しはじめてるから頭痛いところです。余談ですがいま関空はおよそ1兆円の有利子負債が重くきついので資金繰りの一環として支払利子を国がいくらか補給し、さらに連絡橋を国が買い取る方向で進んでて買取を国の直轄事業としてやろうってことになりつつあります。
財政投融資制度は便利な存在だったので、いろんなところにつかわれました。財政投融資制度がなければ関空も巧くいったかどうかわかりません。でも本質的には国民からの借金です。甘い計画にも突っ込んでしまったところもあります。で、利子をつけて返さねばならぬものですし事業が巧くいかねば誰かが尻拭いしなければなりません。関空は国と大阪府が尻拭いしてるわけっす。この財政投融資を止めさせるために根っこである郵便貯金を国から切り離そうということで郵政省を解体し郵政公社ができ財政投融資制度を止めゆうちょの資金を自主運用させ、さらにふみこんで民営化・株式会社化の是非を問うた選挙がありました。株式会社になったいま国が株を放出さえするとゆうちょと国の関係は切れます。ただ現在、ゆうちょは市中金融機関が日々の資金繰りを調整している短期金融市場に資金を投入して運用をするようになりましたが運用先の大半は日本国債で、かたちを変えてゆうちょは国の財政の一端を支えてる格好です。


小泉元首相をちゃんと評価するならば郵政民営化を掲げながら財政投融資のシステムを壊したところです。このおかげで楽に資金をあつめていた特殊法人は自らの信用で資金を調達する必要がでてきてます。政策的に融資をおこなったりする機関や公共性の高い機関がはたして効率を考える必要性があるのかっていったらどうかとおもうものの、債券を買ってもらうために緻密な事業計画を策定したり経営状況などの情報を開示したりして金融市場の信用を得る必要があって経営の透明性や効率化を否が応でもせまられてます。ここらへん、たぶん後世に名を残すことになろうかとおもいます。


郵政省をぶっ壊す、財政投融資制度をぶっ壊す、ってのは見事成功しました。繰り返しますが評価されていいことだとおもいます。で、よかったね、と拍手するだけなら問題はありません。正直「壊すこと」に意味を持たせば「壊すこと」のみみんな注目します。じゃあ、ぶち壊したことに意味があるかって言ったらあるようで、ないのです。もしあるとするならば、ぶち壊すことに意味があるんじゃないかと思う人の中にしかありません。だって意味ってつきつめれば「意味があると思うものをかき集めて整理して、脳内で何かを構築したり納得したいときのツール」ですから。
いちばんの問題はぶち壊したあと、どうするの?なんすけども。始末をつけなければ「壊しただけ」なのです。

小泉さんも安倍さんも福田さんも麻生さんも結局郵便貯金制度をぶち壊してどうするのか、ってことをきちんと示せませんでした。郵政公社は結果として三井住友、トヨタあたりの民間から人をよんで経営をまかせ株式会社化して民営スタイルってことはやりましたがゆうちょは一般の銀行の姿には程遠く、1000万しか預金できず、法人への貸し出しもできません。ほんとは完全民営化をしたいところですが信用金庫以上に地域に根差しすぎ、さらに民間と比べ物にならないくらいの資金力と信用力をもってますから現状のままそれをやったら既存の地方金融機関に打撃を与えるでしょう。いまの段階では何年か前の選挙の結果、怪物のような資金力と信用力をもち既存の地域の金融機関より緻密な網の目のような支店網を持つ国債を大量購入してくれる得体の知れない国策金融機関をひとつ作り出したにすぎません。しかし、次の手も打ちにくい。この得体の知れないものをどうするんすかね。いいかえれば、壊した始末をどうつけるつもりなんでしょうか。
得体の知れないものはまだあります。財政投融資を使ってできたものの処理です。財政投融資を使っての、新たなお荷物案件はこれから先、出てこない確率が高いですが、今ある得体の知れない先が見えないお荷物の処理は終わっていません。お荷物案件の例として関空があります。首が回らないほどの債務を抱え、にっちもさっちもいかない関空をどうするのか。法曹の世界から飛び込んだ橋下知事関空をなんとかしようとして具体策として「伊丹を廃止すべきなんじゃ?」という提言をしてますが、ひどくわかる話だとおもってます。関空の株主である大阪府はすでに無利子で500億ほど貸付金として貢いでてさらに橋の代金として国と一緒に関空にさらに資金を貢がなきゃいけない事態なんすけど、ただでさえ厳しい府の予算を食う先が見えない関空を現状のまま放置するわけにはいかないからです。始末の方法を考えている点で毀誉褒貶の多い橋下知事は、まともに私には見えます。


私は郵政民営化に反対だった、けど最後には納得して賛成した、といったいわない、ってのは正直、どうでもいいのです。笑っちゃう、ってのは、もっとどうでもいい。問題ってどこにあるかっていったらぶち壊したあとの後始末をどうやって軟着陸させるかなのです。中央の政治家がそれを誰も言い出さないところが、非常に怖いんすけど。
それが政治だっていえば、そんなもんなのかもしれませんが。私は政治学はまったく知らないのでなにが政治なのかわかりませんが、なんだかへんだぞ、ってのはすごく感じてます。