ばれなきゃいいじゃんの誘惑

一般に銀行や信用金庫は普通預金や定期預金で資金を調達する一方で、それを法人向けに貸出したり住宅ローンとして貸し付けたり国債、地方債や株式その他有価証券に投資して資金を運用してます。当日の預金者の引き出し要求と貸出先からの返済においてつじつまがあうか、手許に資金がそこそこあれば問題はありませんが、日常的にどうしても資金の運用と資金の調達の間につじつまがあわないことがでてきちまいます。銀行は手許に現金がありませんから払えませんとはいえないので、そこで各金融機関の日々の手元資金の過不足を調整するというか一時的に資金を貸借しあう銀行間の資金取引の市場があります。各金融機関において余剰分があれば貸し出しをして、不足分があれば借り入れるという取引が機動的に行われています。
銀行がいくらかの期間を定めて日本国内で銀行からお金を借りる場合金利は、TIBOR(Tokyo InterBank Offered Rate)という指標を参考にします。円とユーロ、翌週、1ヶ月、2ヶ月などの期間別に表示されてて、それにプラスαして貸出・借受ます。このαは借り手の信用状態に応じます。借り手に信用があれば、このαは小さくなりますしなかったら大きくなります。で、この数字は三井住友やみずほ、商工中金シティバンクなどが毎日「この程度の金利で資金調達が可能です」という申告を全国銀行協会にして、それを集計して算出してます。日経新聞に必ず載る指標でして、ここでの金利が上がれば他の金利が上がることが多いです。で、去年の年末にこのTIBORを操作しようとしたスイスと米国の銀行があって日本の金融庁から「ちょっとまて」と制裁を喰らう事件がありました。そのときはあんまり大きな事件にはならなかったんすけど。


TIBORがお手本としたのはロンドンにあります。ロンドンと東京は時差があるのでTIBORを作った側面があります。ロンドンの場合、LIBORといいますが、ロンドンの場合は世界中の金融機関が参加します。通貨もユーロ以外に米ドルや円、スイスフランほか多岐にわたります。英国銀行協会が英銀のバークレイズほか米銀シティなど各行の「この程度の金利で資金調達が可能です」という申告を前提に数字をはじき出します。ロンドンの場合、これが世界中の金利に影響します。よく政府開発援助や比較的大きな会社に協調融資を行うときの金利LIBOR金利を基準にしてプラスします。なんでLIBORがそんなに力を持つか、というと英国の金融業界に信用があったからです。ところがこのLIBORに関して混乱に見舞われてます。きっかけはバークレイズという金融機関が過去リーマンショック以降このLIBOR指標を計算するのに必要なデータというか提出する金利を操作して(過少にして)英国銀行協会に報告したことを認めたところからはじまります(つまりバークレイズは低いレートで資金調達できる≒信用があるということを見せたかった)。東京で外資系金融機関がTIBORをいじろうとしたときにはロンドンでは金融機関が金利をいじってたわけです。約束とかルールをを守るということをしてるときに、ルールとか約束を守らない人がわかるところにいたら信用とは関係なくルールを守るのがばかばかしくなってきますから、どんどんルールとか約束は守られにくくなりますから、よそでも数字をいじろうというのは、判りたくないけど判らないでもない話です。ルールというのは守るから価値があって、そうでなかったら「ばれないからいいじゃん」「前はオッケイだったし」とかわけのわからない理屈でない理屈がでてきていっぺん破ったらなかなか元には戻りにくくなります。バークレイズは不正を認めてますが、他行もおそらくやっているのでは、という憶測が流れてます。調査が進むうちに(LIBOR金利が上がると各国に影響が出るから)英国の中央銀行の幹部が過少申告を示唆したのではないかとか、出来の悪い小説のようなどこまで事実でどこまでフィクションなのかわからない状態が続いていますが、それはさておき。


世の東西を問わず、人というのはルールを破りやすい存在なのかもしれません。文字にしちまえばあたりまえっぽい言葉しか考えつかないのですが、でもその対策がなかなか難しそうな気がしないでもないです。