「マンガを教えろ、さもなくば殺す」と云われたら挙げる2作品

「おすすめ」という言葉があまり好きではありません。好き嫌いというより「おすすめ」されたものが生憎おのれに合わなかったとき、他者に善意で良いとすすめられたものを遠回しにどうNGと伝えるべきか、頭の回転が遅くて語彙力のない私は迷って言葉が出てこなかった経験が何度もあってその経験から「おすすめ」という言葉に苦手意識があります。加えてそして自分が良いと思うものが他人にとって良いとも限らないので、まず他人に「おすすめ」することはあまりしません。

とはいうものの、暇を持て余して死にそうなので、なにかマンガを教えろ、さもなくば殺す、と云われたら殺されたくないので挙げる作品が二つあります。

ひとつは「宇崎ちゃんは遊びたい!」(丈・KADOKAWA・2018)です。いくらかのネタバレをお許しいただきたいのですが第一話では、宇崎ちゃんの先輩である桜井先輩と宇崎ちゃんは遊びに行った(というより後輩の面倒見の良い桜井先輩に宇崎ちゃんがつきまとっていた)翌日、

「昨日からまだ腰痛いんスよ、先輩のせいっスよ」

第一話(「後輩と一人好きの先輩」)

とほかの人の居る前で訴えます。これ以上のネタバレをするわけにはいかないので詳細はなんらかの方法でお読みいただきたいのですが、経緯を共有したりして言葉を尽くさなくてもわかる仲なら腰の痛さの理由はピンとくるのですが、前後を知らねば「腰痛いんスよ」と云われて別の理由を想像しかねません。私はアニメを途中から視聴して原作を読んで一発目でこの場面で腹を抱えて笑ってて、アニメに限らずこのマンガを贔屓にしようと決めています。また別の回(「後輩と猫」)では「早く抜いてください」と宇崎ちゃんが懇願すると桜井先輩が「もうちょっとだからおとなしくしろって」と答えます。宇崎ちゃんがピンチの場面で前後の経緯を知ってればその発言はまったく妥当なのですがそこだけ切り取るととてつもなく誤解を招くようなシーンで、やはり可笑しいのです。「宇崎ちゃんは遊びたい」においてはそれらの回以外でも他の人が誤解するような発言を宇崎ちゃんも桜井先輩も意図せずわりとします。

「宇崎ちゃんは遊びたい!」は、口から出てしまった言葉をコントロールできないもどかしさ、発話者の本意の伝わらなさや、日本語の意思疎通の難しさを浮き上がらせ、可笑しさに転化した作品だと思っていますって、私が書くと誇大妄想的になるのですが。私も言葉を尽くさずに発言してしまうことがあるので、つまり宇崎ちゃんや桜井先輩と同じ側に居て宇崎ちゃんと桜井先輩を笑ったその笑いの何割かはブーメランのように突き刺さります。

書かねばならぬことを書くと過度に宇崎ちゃんは胸が大きく(なので肩がこる描写がある)、「SUGOI DEKAI」という七分袖シャツを着ることがあるほか、宇崎ちゃんが桜井先輩にわざとセクハラっぽいことを仕掛ける場面もあり、誰もが受容するとは限らない作品です。ただそれらをさっぴいても桜井先輩が(主に宇崎ちゃんによってもたらされる)受難にあいながらも微妙に変化してゆくところが、人って可塑性があるのかな、と思わされた作品です。

毎日COCOAを確認してほっとするような、どこで感染するかわからないいくらかシリアスな状況の中で桜井先輩と宇崎ちゃんを見つけてて、笑いながら「宇崎ちゃん」を読んでいましたが、シリアスな状況ほど笑いを欲したくなることってないっすかね、ないかもですが。

2つ目は以前書いたかもしれないのですが、「はたらく細胞」(清水茜講談社シリウスコミック2015)です。細胞を擬人化したマンガで、去夏から血液内科に通うようになってから読みはじめています。

alu.jp

主人公級の赤血球さん(AE3803)がどちからというとおっちょこちょいに描かれていて、数値が良くないときに調子が悪いとああ赤血球さんがなにかしでかしたのだな、しょうがないかな、思うようになりました。身に起きた対処法のないシビアな状況でもマンガで濾過するとやりすごせるようになっています

はたらく細胞では基本的なところを含め血小板の機能やがんについて触れられています。死んだ父は最期は血小板が減少していて、死んだ母はがんで、当時は手探りで勉強していましたが「はたらく細胞」が20年前にあったらな…と思わずにはいられないです。ほかにも黄色ブドウ球菌やスギ花粉アレルギーなどについても触れられていますし、細かいところなのですがウイルスと細胞についても大きさなどを含めてきわめて事実に沿った形で描かれています。笑える作品ではありませんが少なくとも私は飽きずに最後まで読め、なおかつ知識の再確認や取り込みに役に立った作品です。

そんな人がいるかどうかわかりませんが・あり得ないと思いますが、このダイアリがきっかけで作品を読んで、他にてめえが読んできたものも教えろ、という場合、コメント欄にほかの作品も教えろ、さもなくば殺す、と書いていただけると、まだ殺されたくないので改めて別の作品を挙げたいと思います。