情報公開制度というのが世の中にあって、行政機関の有する文書を公開しています。宮中晩さん会の食材の仕入先やコストなどの文書は公開対象になっていおり宮内庁も公開できる範囲で公開していてかつて琉球新報の記者の方が最大限活用してそれらをまとめて「天皇家の財布」という1冊の本にまとめています。
もちろん限界があって、たとえばハザードマップとは扱いが違って地下壕がどこにあるかという情報は官公庁・自治体が持っていてもその情報はそれほど公開されていません。公有地はともかく私有地は自治体が把握していても公開しちまえば私有財産の評価額に損害を与える可能性のあるのでネガティブ情報は簡単に公開するのは適当ではないという判断かとおもわれます。官公庁・自治体等がもっている情報を全て公開すべきかというとものによっては厄介といえば厄介で、できる限り行政文書を開示するように情報公開がなされるべきか、というと考え込んでしまうのですが、まったくないよりあったほうがマシな制度であったりします。
情報公開法というのが情報公開制度を支えてるのですが

情報公開法
1条 この法律は、国民主権の理念にのつとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする

とあるんすが、いちばん大事なのは「国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資すること」という部分です。公開がなければなにが公正か不公正か、というのはわかりませんし、公開を前提にしてるものでは不正は起こりにくかったりします。ただ「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務」というのは(憲法の根幹の)民主主義の制度に深く関係するものではあるものの憲法で明文化してるわけでもないのでそんなものあるの?といわれるとけっこう難しく、情報公開法固有の考え方であったりします。
秘密保全法という法案を巡る議論がここのところあって、そのなかで「知る権利」について報道でとりあげられてますがいわゆる「知る権利」は憲法上の明文はなく、関連するかもしれない21条の規定する表現の自由は国民が直接に行政機関の保有する情報の開示を請求し得る権利としての「知る権利」の保障を直接に含むものではないですし、憲法に付随して請求権的権利としての「知る権利」は判例上認められているかというと必ずしもそうではないです。情報公開法1条は目的規定なのですが、行政機関が保有する情報に対する国民の開示請求権としての「知る権利」という言葉を一切使っていません。ですから行政がもつ情報に対する開示は情報公開法の脆弱な基盤の上に立つ砂上の楼閣のようなもので、情報公開制度というのはけっこう弱いものであったりします。でもくりかえしますが情報公開制度のメリットというのは、いずれ人目に触れることを前提にしてます。それがどれほどの効果をもたらすか、計算ができません。
さて今国会に秘密保全法制が提出されるのがほぼ確定的になりました。想定される秘密保全法制の内容は、「国の存立にとって重要な情報」を行政機関が「特別秘密」に指定したうえで秘密を扱う人、その周辺の人々を政府が調査・管理する「適性評価制度」を導入して「特別秘密」を漏らした人を厳しく処罰するというものです。国会提出前に与党の一部ががんばって「知る権利」について条文をねじ込んだ、というのはかなりの功績になるのですが、しかしながらでも今の情報公開制度も必ずしもすべてを公開してるわけではなく、法を別に改めて作る必要性というのはほんとに必要なのか、正直判らないところがあります。また今夏でていた案の状態でひっかかったのは国政調査権との関係です。国会の各院は国政調査権をもってて、証人の出頭や証言、記録の提出を求めることができます。また、首相や閣僚に国会への出席を求め、答弁や説明を求めることもできます。ところが概要だと「行政機関の長」が指定した「特定秘密」に関しては、衆参の委員会などに提出する条件として「公開されないもの」(非公開の秘密会)であることを要求してて、なおかつ公開の範囲を限定可能としてて、「特定秘密を知得した者(代議士・議員は公務員にあたる見解がある)」が秘密を漏らした場合、どうなるんでしょう。国会会期中の不逮捕特権との絡みを考えるとそう簡単に逮捕されないだろうけど、限定する範囲をどこにするか、議員だけにするのか、秘書はダメなのか、他人に意見もきけなくなるとするとえらく国政調査権が阻害されやしないのかとかあれこれ考えちまうのですけども(ここらへん国会で修正されると思いたい)。また秘密を洩らした公務員を罰する、といっても罰則があったからといってその行為が減るか、っていったら美味しいシュウマイじゃねえ、収賄事件が無くならないことを考えると正直判らないところがあります。
さて、人間の悲しいさがをひとつここで述べたいと思います。人というのは機械ではないので、どんな負荷にも耐えられるかといったらそんなことはありませんし秘密を持った人間の、いちばんの望みは秘密を持つ重みから解放されることです。だからどんなに法で秘密をがんじがらめにしようとしても、おそらく秘密を保持してしまった人間は、その重みに耐えられないことがあったりするはずです。だから秘密保全法なんてつくっても、あまり実効性はないのではないかなあ、などと思ったりするんすが。