ベったらを買いに

10月は東京では神無月で、神様は出雲へで行ってることになっています。その留守を預かるのが出雲に行かない恵比寿さんで、商売繁盛御礼と祈願の恵比寿さんの大祭が19と20に日本橋で行われます。本町に宝田恵比寿というところがあるんすが、べったら漬を売る市が立つので通称べったら市といいます。

新宿から日本橋へでて、そのべったら市へ。

宝田恵比寿は大きな社殿ではありません。もともとはいまの皇居内にあったものの江戸城拡張のために日本橋遷座し、江戸期から為替商や繊維商の商売の守護神として三百年以上続いています(ただしいまは神田明神が管理してます)。このべったら市は小さいころから馴染みの祭りで、おとなになった今でも会社帰りによることもあるのですが、今年は週末にあたったので改めて出かけた次第。

日本橋浜町明治座と料理屋さんの濱田屋と(経営者が両方とも三田さん)、左團次丈(何代か前は明治座を運営していた)をはじめ江戸の歌舞伎役者・舞踊関係の皆様の献灯。

(子供のころから比べるとかなり激減したものの)いまでも繊維関係の会社はこの近辺に残っててベったら市のときは投げ売りに近いセールを行います。他にもタコ焼きや焼きそばの露店や日本橋に店を持つ肉の今半や粕漬けの魚久、佃煮の鮒佐などが出店をだしてます。

ベったら市で売られるベったらです。浅漬け大根をあめと麹につけたちょっと甘い漬物で(表面がべとべとするのでべったらという)、こどものころからの好物です。この漬物だけで私はごはんを食べれます。ただちょっとにおいがあるので万人受けしません。でもこれを買いたいがために余裕のある年は宝田恵比寿へ行きます。

東京の東側の場合、甘い味というのがけっこうあります。弁松という折詰の店があって野菜の甘煮(ほんとは甘辛いのですけど)があり、甘煮と書いて「うまに」と読ませます。駒形どぜうも江戸甘味噌をつかうのですけど、甘いもしくは甘辛い味付けというのがおそらく江戸・東京の「伝統のうまいもの」に何割かあてはまるので、万人受けしません。東京にうまいものがあるんすか、という人が居たとしたら(横っ面を引っぱたきたくなるのをぐっとこらえて)ベったらの広告を引き受けてる先代と当代の三平師匠のセリフを借りて「どーもすいません」としか切り返しようがありません。すいませんといいつつこっそり食ってれば誰も損はしません。

東京は先日の台風のあと急に冷え込んできちまい衣替えも十分ではなかったので遊んでるわけにもいかずはやめに江戸橋を渡って撤収。ただ冷蔵庫の中にうまいものがある、というのはめんどくさい家事でもちょっとモチベーションが上がります。