多選禁止について

「知事多選を条例で禁止 神奈川県、全国で初」



神奈川県議会は12日の本会議で、松沢成文知事が提案した知事の任期を恒久的に「連続3期12年まで」に制限する多選禁止条例案を可決した。県によると、知事の多選自粛を求める条例は埼玉県などが制定しているが、禁止する条例は全国初という。各地方自治体首長の多選問題への対応にも影響を与えそうだ。
施行時期は「地方自治法などの根拠が必要」(自民党県議)などの慎重意見に配慮し、当初案の「公布の日から」を「別に条例で定める」と修正。事実上、施行は地方自治法などが改正され条例による多選制限が認められた後になるとみられる。今後、政府や与党の動向が焦点となる。
多選をめぐっては、行政の停滞や腐敗を招くとの指摘がある一方、多選制限は憲法に違反し、有権者の選択肢を狭めるとの批判もある。
10月12日付神戸新聞より転載

日本国憲法
第15条 
公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。


不思議な条例が可決しました。
日本においては参政権というのがあります。参政権のうちで重要なのが選挙権です。近代選挙においては普通選挙という原則があるんですが、そのうちの普通選挙というのは広義では性別や経歴などを選挙権の要件としないことであったりします。選挙権と被選挙権は表裏一体です。
憲法15条は被選挙権や立候補の自由を直接規定はしてないものの、立候補の自由は同条の保障する基本的人権の1つとして解されています。歴史があって昭和43年に労働組合の要請を振り切って立候補した組合員とその所属組合のとの係争があってその裁判において
『被選挙権を有し、選挙に立候補しようとする者がその立候補について不当に制約を受けるようなことがあれば、そのことは、ひいては、選挙人の自由な意思の表明を阻害することとなり、自由かつ公正な選挙の本旨に反することとならざるを得ない』
『立候補の自由は、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持するうえで、きわめて重要である』
『このような見地からいえば、憲法15条1項には、被選挙権者、特にその立候補の自由について、直接には規定していないが、これもまた、同条同項の保障する重要な基本的人権の一つと解すべきである』
という判断がでています(三井美唄炭鉱労組事件最判S43・12・4刑集22巻13号1425頁)。この考えは今でも生きているはずです。上の記事中の憲法違反というのはたぶんそのことを云ってるはずです。


誰でも自由に政治家・知事になることを可能とするシステムを残しておくことは、単純に考えても民主主義に資するものでしょう。ただ、首長の選挙に一定の制限が有ってもおかしくはないでしょう。例えば企業経営にあかるく財務に強いっていう人を政治家に据えてもいいと思いますが道義上首長になる以上は民間企業との兼職を避けるとかです。ただ多選は良くないってことで何度も立候補した候補者の立候補を制限するのは私はおかしいと思います。



地方自治体の首長は人事や予算など、比較的権力を事実上もっています。それについて田嶋陽子参議院議員が「小さな大統領だ」といわしめたくらいです。きわめて「クリーン」な政治を目指されてるらしい公明党なんかでは首長候補者の推薦について三選までらしいのですが、たぶん多選を抑制しようとする理由として長期の権力は腐敗しやすいからってのがあるらしいのです。確かに同一人物が長期間にわたってその地位を独占する事は首長の個人的なつながりが役所内外に根を張りかねず、適正な地方自治の運営が阻害されかねない可能性はあります。実際、五選された福島県知事による汚職事件も確か側近が公共事件を采配してたりと、多選は良くない、と思わせる材料は確かにあります。ただ、多選の知事や首長が必ずしも腐敗するかといったらそんなことはないのです。高知県では橋本大二郎知事がたしかかなり長期間県政を担ってますが、知事自身の汚職はたしかない筈です。多選が地方自治の運営を阻害するから禁止すべきってのは、私はかなり乱暴な意見のような気がします。腐敗や組織の硬直化は人によって左右するからです。三選までとかそういった議論のほうが現実をみない硬直化した考えのような気がします。


冷静になって考えていただきたいのですが適正な地方自治の運営のために単純に四選を禁じてその条例を作るってのは、確かに良いことのように思えますけれど、んなもの住民の選挙によって地方自治の運営を阻害するとおもったら候補者を落とせば良いだけの事なのです(長野で何があったのか詳細は判りませんが田中県政の急進的改革に反対する勢力が別の候補を立てたことを想起してください)。任期切れの選挙で対立候補を立てれば良いのです。他にも地方自治法には首長解職リコールの手続きがあります。また、一律に四選を禁じる条例を作ってしまうと、実務に長けて有能で、かつ有権者から支持を受け続けている候補者を知事職に送り込むことができなくなるわけで、かえって地方自治の運営を阻害することになりかねないんじゃ?と思うのですけれど。
神奈川県在住の方は良く考えていただきたいんですけど条例を提出した県知事閣下は神奈川県民をどのように見ているか、今回の動きをみると、よくわかります。つまるところ、わが県民には地方自治の運営を阻害する候補者を見分ける力などない、といってるのに等しい(むしろどこか馬鹿にしてる印象すらある)のではないですか?だから四選禁止の条例を出してきたのではないでしょうか?
じゃないとなんでこんな条例案を出してきてたのか、ちょっと理解に苦しむのです。


それとも神奈川県は埼玉県に対抗意識があって
さいたまが自粛?よーし、かながわは制限しちゃうぞー!パパはがんばっちゃうぞー!
ってことなんでしょうか。