仙台味噌漬けの胡瓜

数年前の昔話です。松島から塩釜まで船が出ていて、その中では地元のお酒が呑めます。海が荒れてないのを確認して船内で頼んで、流れてくるカセットテープの観光案内放送を聞きながらちびちび呑んでいました。しかし途中で船員さんがそれをストップしてます。船内の放送設備に問題があったわけではなくて、震災でというより津波で風景が変わってしまったらしくてテープをそのまま流すわけにはいかなくなった、との説明で、その船員さんが代わりに宮城の言葉で案内をしていました。途中、船は七ヶ浜町というところの沖合を航行するのですが七ヶ浜町でも津波が来たことを述べ、第一波のときはみんな逃げることができたのだけど、波が引いたあと、急いで出てきたのでおんぶ紐や血圧の薬がないことに気がついて家に戻った人が居てそこに第二波が来てしまったことを説明し、「みなさん県外からいらっしゃったと思います。テレビや新聞では津波が来たら逃げろっていうけど、津波というのは一回限りではないんです、何回も来ることを忘れないで」と訴えていて、新聞やテレビでは知り得ない情報だったせいもあって酔いがいくらか回っていたにもかかわらずそのことをいまでも記憶してます。

いつものように話は素っ飛びます。

その船内では津波でわかめ等の養殖設備の被害にも触れていました。やはり(何度も来た)津波で流出し、湾内のがれきを除却してから養殖設備を再建してて、再建後に塩釜周辺でとれたわかめを乾燥したものを袋詰めして船内で販売していました。説明を聞きながら職業柄「借り入れ起こしてまだ返済してるはずだよな…」とか考えだし「よし、協力するか」と思ったものの、しかしその乾燥わかめがどうみても徳用で、腐るものではないけど使い切るのに時間がかかりそうと考えてその時点ではとっさの判断で見送っちまいました。代わりに船を降りてから塩釜の浦霞という酒を買っています。しかし買わなかったことについて帰京する新幹線の中で小さな後ろめたさがありました。

住んでいる街のヨーカドーではこの時期、(東北のヨークベニマルの取引先かもしれぬものの)東北の商品を積極的に売り込みます。ほぼ毎年つられて買っています。今年も笹かまや牛タンなどが並んでいて、ふと塩釜の乾燥わかめを小さな後ろめたさとともに思い出したもののやはり無く、代わりに塩釜のそばの仙台の「仙台味噌漬けの胡瓜」を買っています。

仙台味噌そのものがはじめてだったのですけどピリ辛でご飯がすすみそうで・酒のアテにもなりそうで、個人的には冒険して大正解で、塩釜に対する小さな後ろめたさがきえるわけではないけどしばらく東北支援の名のもとにおいしく消費する予定です。

お題「これ買いました」